第4話 二刀流
俺が、『帰らずの大迷宮』の底で浅い眠りについて、しばし――
「おい起きな。またお客さんが湧いたぜ」
その声に俺は飛び起きる。
今度は剣を携えたスケルトンが3体。槍を携えた者が1体だ。
「ああ、やってやる――!」
俺は次々と、スケルトン共に徴発を仕掛ける。
スキル :剣術LV5
スキル :剣術LV4
スキル :剣術LV4
スキル :槍術LV5
これらを引き抜くと、敵の攻撃はもうなまくら化してしまう。
後は次々と、斬り倒すだけだ。
「でぇぇぇいッ!」
LV10に達した俺の剣は、簡単にスケルトン共を屠っていく。
「徴発さえあれば、いいカモだな」
敵を倒し終え、俺は剣を収める。
さてこれも、俺の剣術レベルの肥やしになってもらうか。
スケルトン親父はというと、敵の残骸に埋もれる魔石を集めていた。
外套の一部を切り取って小袋を作り、最初の3体分も含めてその中に。
これは、モンスターの体の一部に含まれるものである。
魔力を含んでいるので、アイテムの素材にもなる。
そのため、地上では店で売ったりもできたが――
この迷宮の中でそんなものを集めてもな。
「そんなもの集めて、役に立つのか?」
「まあ、無駄になるかもしれんがな。役に立つかもだろ」
特に止める理由もないし、回収は親父に任せておこう。
「王権――改革」
俺の剣術LV10と、獲得した剣術LV5を改革した。
結果出来たのは――剣術LV11だった。
「ん? 剣術LV10とLV5でLV11しかできない」
「ああ、単純な足し算じゃねえってこった。スキルのレベルが上がるほど、レベルは上がりにくくなる。LV10にLV5の経験を足してもLV11相当ってこったな」
「なるほどな――」
じゃあ、とりあえず残る剣術LV4の2つを掛け合わせると――?
と俺が改革を試みると、ふと脳裏に情報が浮かぶ。
改革結果1:剣術LV上昇
改革結果2:二刀流
「あれ、結果が2つあるぞ……?」
「ほう? 何だ?」
「剣術LV4を2つ混ぜようとしたんだけど――レベル上昇か二刀流だってさ」
LV10とLV5ではこんな分岐はなかった。
同レベルの剣術スキルを混ぜることがトリガーになっているのか?
「へえ? そいつは俺は改革で出来たことはねえな……どうも同じ王権でも持ち主によって結果が違ってくるらしいな。初めて知った」
「そうなのか? へぇ……」
「こいつがお前の才能ってことなのかもな。せっかくだから作ってみりゃどうだ?」
正直、二刀流とか格好よさそうなので、男としては何気に惹かれるものはある。
「ああ、俺だけ悪い。羨ましかったり?」
「いんや、俺は槍使いだったからな。剣には特に思い入れがねえ」
「なるほど――じゃあ槍術スキルも取ったから、親父が使ってくれ」
「おう、悪いな」
俺は下賜を発動し、槍術スキルを親父に付加する。
そして、結果はこうなる。
所持スキル上限数 :3
スキル1 :王の魂
スキル2 :槍術LV5
よしよし。いい感じだ。
「ん――よっしゃこれでちっとは戦えるな」
親父は槍持ちのスケルトンが持っていた槍を拾い上げる。
ボロボロになり、端が錆びついているが――使えなくはないだろう。
シュシュシュと突きを繰り出す素振りをして見せる。
「フーム……こんなもんか、まあ贅沢は言ってられんな」
「じゃあこっちも改革するぞ」
剣術LV4を2つ!
結果出来たのは――
スキル :二刀流(剣)LV3
「なるほどな……」
これに剣術LV11は混ぜられるのか?
俺は『王の眼』に念じてみる。
改革結果1:二刀流(剣)LV上昇
やってみるか!
「王権――改革!」
スキル :二刀流(剣)LV5
なるほど、剣術スキルは二刀流の肥やしにできるみたいだな。
ただやはり、二刀流のほうがレベルアップし辛いようである。
逆に言うと将来性が大きい――ということか。
よし、俺は二刀流を基本で行こう。
俺は出来上がった二刀流(剣)LV5を自分に下賜した。
所持スキル上限数 :10
スキル1 :王権(※固有スキル)
スキル2 :二刀流(剣)LV5
そして、床に落ちているスケルトンの剣を拾い上げた。
「――じゃあ俺は二刀流で行く」
少し素振りをしてみる。
右の袈裟斬り、×の字を描くように左袈裟。
その勢いで反転し右の横薙ぎ、直後に左を縦に振り下ろす。
右の突き込み、続いて左も。
最後に突き出した両手の剣を、外に開くように一閃。
二刀流なんて初めてやるが、まるで生まれた頃からやっているかのように、自然と体が動いてくれた。
ヒュンヒュンと風を切る剣閃一つ一つの威力や切れはLV10だった剣一本には及ばないが、その分手数は2倍である。
同じLV10まで育てれば、二刀流が上回るだろう。
「よし、行こう。出口を探すんだ」
「ああ、任せておけ」
二刀流の俺と、フード付きの外套を羽織ったスケルトン親父は、並んで歩き出す。
ひとまず壁伝いに歩いていくと、壁に空いた穴とその先に続く通路を発見した。
どうやら俺達がいたのは、ほんのダンジョンの一部の小部屋だったらしい。
小部屋を出てそれほど幅の広くない通路を進む。
通路を覆うのはむき出しの黒土だった。
あちこちにごろごろと、岩も転がっていた。
「……腹も減ったし喉も乾いたな」
「空腹はまだしも、水はないと困るわな。地下水でもありゃいいが」
「見つけたら教えてくれよ」
「了解だ」
それから更に歩を進めていくと、大きな空洞に出た。
その中は他の場所よりかなり光る苔の量が少なく、視界が悪い。
歩いていると、膝上の高さくらいまである大き目の岩にぶつかる。
「くっそ……痛かったぞ」
舌打ちして、横を避けて進む。
少し行くとまた同じようなものにぶつかる。
障害物が多いなここは。
ピチャン。ピチャン――
ん? 水滴の音!?
「親父、水の音がしないか?」
「ああ――こっちだ」
「よし……!」
俺は骨の指先が差す左方向に走り出す。
そして、また岩とぶつかった。
「あーもう! 邪魔だな!」
俺は岩を蹴り上げた。
グルルルウゥゥ!
唸り声とともに、あちこちに赤い灯が現れる。
「何!?」
赤い灯のお陰で辺りが照らされ、全景が見えてきた。
俺が蹴り飛ばした岩は、岩のような肌を持つ獣だった。
しかも炎の力を秘めているらしく、表皮の岩は灼熱の色に輝いている。
どうも眠っている間に灯が消えていただけのようだ。
俺は『王の眼』でそいつらを軽く観察した。
名前 :??
年齢 :??
種族 :マグマビースト
レベル:10
スキル1 :格闘LV3
スキル2 :火魔術LV5
俺達よりレベルが高い――!
それに敵は六体も……!