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第36話 未来への希望

 レミアのおかげで、結界の代わりに街の守り神となる武器は完成した。

 そして、それを誰が使うかも決まった。

 選ばれし戦士は――おっさん二人と虚弱体質の神子である。

 彼等は毎日頑張って、武器に付いていくべく体力づくりに勤しんでいた。

 ここ数日は俺達も毎日神子の館に顔を出し、訓練に付き合ってはレミアの店に戻って休むを繰り返していた。

 正直もう、いつダルマール共がやってきても大丈夫だ。こちらの準備は整っている。


 その日も神子の館からの帰り道、俺とレミアは細い路地を並んで歩いていた。

 太陽石の光が茜色すらも消えかかっている、深い夕刻である。


「やれやれ親父の奴、飲み足りないから先に帰ってろって――もう手伝いに行ってるんじゃなくて、飲みたくて行ってるだけだよな」


 スケルトンでは飲み食いできないので、わざわざ毎日走爬竜(ラプトル)の体も連れて行っているのだ。

 どう考えても確信犯である。

 どうも、神子の館に備蓄されている酒が美味いらしい。

 俺も少し飲んだが、まだ味の良さが良く分からない……

 味覚が子供! と笑われたので蹴っ飛ばしておいたが。

 コークスさんもレントンさんも客人をもてなす為という名目で飲めるので、親父は歓迎されていた。

 どうもあのおっさん達は、訓練がしたいのか酒が飲みたいのか、疑わしい所がある。

 『いつオーガ共がやってきてもいいように、深酒はしていない』とキリッとした口調で言っていたが――

 もし本番で酔い潰れていたらぶん殴ってやろうと思う。


「あははは。まあ、みんな嬉しいんだよ。先の事に希望が持てるなんて事、もうずっと無かったから……それにあそこのお酒、美味しいし――」


 レミアは俺より味覚が大人なようで、酒が美味しかったらしい。

 しかも強いようで、結構飲んだはずなのにほんのり頬が上気しているくらいだ。


「先の希望か――それは結構なんだけどな」

「ルネスのおかげだよ? 本当にありがとうね」


 レミアの笑顔は、頬が桜色になっているせいか、いつもより少し色っぽい気がする。


「まだ早いさ。ダルマールとオーガ共を叩き潰してからでいい」

「うん。そしたら、その次はあの上に行くんだね――」


 レミアが上を見上げる。

 そこには茜色を失いつつある太陽石と、もっと遥かな高さに見える青緑の石の天井が。


「何があるのかなぁ……ボク、全然想像もつかないよ」

「すぐに地上とかだったら、面倒が無くていいんだけどな」

「だったら本物の空とか太陽とか星が見えるね。いいなぁ。見てみたいよ――」


 レミアはそう言って、目を輝かせていた。

 だが――


 生贄の必要など、もう無くなるのだ。

 もうセクレトの街は、レミアの居場所が無かったあの暗い街ではなくなるのだ。

 これからのこの街に、レミアの居場所はある。

 家族が――コークスさんがいる。

 コークスさんも娘思いだし、レミアも父親思いだ。

 二人の関係は決して悪くない。

 むしろこれから気兼ね無く、親子で過ごせるようになるはずだ――

 家族を失ってしまった俺には、その事はとても素晴らしい事のように思える。

 もう俺には、願っても叶わない事なのだから。


 この先何があるか分からない。

 無事に地上に出る前に、俺は死ぬかもしれない。

 地上に出れたからといって、ダーヴィッツに勝てるのかも分からない。

 そんな分からない尽くしに――巻き込んでいいのだろうか。


 レミアやカイル、それにここの人々が地上に憧れるのは分かる。

 だから戻り方が分かったら、一度ここに戻ってそれを伝えるつもりではある。

 少なくとも安全に地上に出る方法が分かり、戻ってくるまでは――レミアは……


「――ルネス? どうしたの?」

「いや何でも……っと!」

「あっ! 大丈夫?」


 考え事をしていた俺は道端の置石に躓き、レミアが腕を取ってそれを支えてくれた。


「ああ、大丈夫」

「よかった」


 俺達は再び歩き出すが、レミアは一度取った俺の手を離さなかった。

 そのままキュッと、俺の手にその白い手を重ねて、柔らかく握ってくるのだ。


「……!」


 おれはその行動にドキッとして、レミアを見る。

 だが、レミアは何も言ってくれない。

 頬を赤らめたまま少し伏し目がちに、前を向いている横顔だけが目に入る。

 さっきより頬が赤い気がするが――


「「……」」


 俺も何も言えず、俺達はそのまま歩き続けた。

 お互い何も言えずに、ただ手だけは握って、握り返して――

 会話は無いが、決して不快ではない。

 全身が何か心地よい温かみに包まれていた。


 やがてレミアの店の目の前に到達すると、向こうが小さく囁くように言う。


「ねえルネス――もう少しお散歩してから帰らない?」

「ああ……そうだな。ゆっくり街を散歩する事ってなかったからな」


 俺達は手を繋いだまま、あまり人目に付かない細目の道を選んで、散歩を続けた。

 特に何を目指すわけでもない。ほんとうにただ、ぶらぶらと。

 だがそれでいいのだ。手を繋いで歩くこと。ただそれだけが目的だったのだから。


 だがそんな時である――オーガ共が攻めて来たとの住民達の声が聞こえてきたのは。

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