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第35話 体力不足の戦士たち

「あっ、お父さん! うん、我ながら良く出来たと思うよ」


 レミアはコークスさんにそう応じた。

 カイルは俺の方に近寄って来る。


「やあルネス。作業は順調なようだね」

「そうだな、さっき完成したところだ」


 レントンさんはカイルとコークスさんの護衛だろう。兵士なのだから。

 となると――俺達の武器を使う戦士はどこだ?


「カイル。武器の使い手を連れて来てくれるって言ったよな? どこにいるんだ?」

「もういるよ? 君の目の前にね」


 カイルはさも当然と言ったふうに笑みを見せた。


「ええっ!? この三人なのか!?」


 カイル、コークスさん、レントンさん。

 レントンさんは兵士なので問題は無いが――

 神子様と神官長様が最前線で戦うつもりなのか!?

 それでいいのだろうか――


「ええええぇぇぇっ!? お父さんが戦うの!? あ、危ないよっ!?」

「何を言う。お前もオーガ共に立ち向かっていたじゃないか。私だって戦えるものなら戦いたいんだ。神官長として、この街を護るために立ちたいと願うんだ。お前がルネス君と作る武器は、その気さえあれば誰にでも力を与えてくれるんだろう? なあルネス君?」

「は、はい。そうですけど……」

「ならば私は適任だと思う。何せ私は妻を生贄に取られ、更には二度も娘まで失いかけた身――君のおかげで娘だけは助かったが……奴等への怒りは誰にも負けん自信がある。どうだろうルネス君、私を奴らと戦う戦士にしてくれまいか」


 そうか。初耳だったが、レミアのお母さんは、そうなんだな……

 だからレミアはオーガを自分で初めて屠った時、あんなに嬉しそうにしていたのだ。

 そして今のコークスさんは、俺と同じだ。

 家族を奪った仇を、自分のその手で斃したいのだ。

 気持ちは、痛いほどよく分かる。

 ならば俺に反対する理由など一つもない。

 むしろ王権(レガリア)の力がこの人の復讐の役に立つ事が嬉しいと思う。


「分かりました。俺に言う事はありません、お願いします」

「おお――ありがとうルネス君!」

「いいよな、レミア?」

「うん……ルネスがいいって言うなら――」

「じゃあコークスさんは大斧をお願いします。勇気の大斧って名付けました」

「勇気――なるほど、いい武器だ……」


 コークスさんが大斧を手に取り、じっくりと眺めている。


「カイルは弓にした方がいい。接近戦は苦手だろ、それに街の代表である神子様が前線に出過ぎるのは良くないしな。お前がいなくなったら大変だ」

「ああ。ではそうしようか」

「じゃあ大剣はレントンさんに」

「分かった。俺には妻も子供もいないんだが、年老いた母親が生贄に取られてな――これで仇を討たせてもらうとするよ」


 レントンさんが真剣な眼差しで大剣を掴み上げた。


「はい。思う存分やってやって下さい。俺も手伝いますから」


 俺は大きく頷いた。


「ダルマールがいつ攻めてくるか分からない。僕等は早くこの武器に慣れておかなくてはいけないね――」

「持って帰って貰っていいぞ。もうこの武器はこの街のものだ。この街の人間が使い方を決めてくれればいい」

「ありがとう、ルネス。君の来訪は本当に天恵だね」

「大げさだよ。俺はボロボロにやられて、情けなく飛ばされただけだからさ」

「レミアもご苦労様だったね。君がいなければ、ルネスも困っただろう」

「いいえボクは……ルネスに助けて貰った恩返しがしたかっただけで――」

「カイル。武器を試すなら、練習相手はいるか? 何なら付き合うぞ」

「ああいいね。お願いできるかい」

「勿論だ。ついでに武器の性能の詳しい事も教える」

「分かった。じゃあ神子の館へ行こう。庭の広場なら、広いから暴れても平気だよ」


 俺達は全員で神子の館に移動する事にした。

 そして、カイル達が勇気の武器の扱いを練習する稽古相手を務めた。

 基本的にどの武器も自己修復するため手入れはいらず、今後永きにわたって使用する事が可能。

 そして、武器自体に武器スキルが下賜(グラント)されているので、誰が握っても一定の強さを発揮できる。

 そしてそれぞれの武器には魔術スキルも下賜(グラント)されている。

 その使い方などを、実演を交えて説明していった。


 カイル達は実際の武器の性能を見て感心しきりで、やはり握っただけで熟練者の動きが可能になる点に特に衝撃を受けている様子だった。

 持っただけでコークスさんの斧とレントンさんの大剣は唸りを上げ、カイルの弓は空気を切り裂くのである。

 更に斧は雷光を発し、大剣は触れた物を凍結させ、弓は標的に当たると爆裂する魔術の矢を生み出す。

 また、武器をわざと少々傷つけてみても、自己再生のスキルで勝手に修復する事も実際に確認した。

 素晴らしい武器だ。これがあれば、ダルマールからでも街を護る事が出来る――

 カイル、コークスさん、レントンさんは口々にそう言っていた。

 そして一通りの練習を終えて――


「はははは。私にも戦えるのはいいが、この年の鈍った体が急にああも動いては、なかなか堪えますなあ……」

「いやあ全く……ああ、疲れた――年は取りたくないもんだなあ」


 コークスさんもレントンさんも、ゼエゼエ言いながら大の字になっていた。

 コークスさんは初老だ、そしてレントンさんは中年。

 ふたりともいいおっさんなのである。

 それが急激に達人の動きをしたから――


「ふう……僕も元々体力が無いからね。若いけれどコークスやレントンと同じだよ」


 カイルは行儀は良い感じだが、やはり蹲っていた。


「慣れだな、慣れ! 後は気合で何とかなるさ。さぁみんなで風呂でも入って、その後は一杯やろうぜぇ! 疲労回復して、やる気を充填して、また訓練すりゃいい。大丈夫だオッサン共、あんたらの未来は明るいさ」

「おおヴェルネスタ殿、それはいいですな」

「お付き合いしますよ。スケルトンの友人と飲む酒もオツでしょう」


 いつの間にか親父とおっさん達は仲良くなっているのだった。

 親父も本来はおっさんだし、年齢が近い同士馬が合うのだろう。

 しかし社交的なスケルトンだな……

 本当にホネのくせに、恐ろしいどころか周囲の空気を明るくするのだ。

 元は王様なのだし、人を惹きつける何かがあるのかも知れない。


「おら、いくぞルネース! カイルもな!」

「はいはい」

「分かったよ。皆で入るのも賑やかでいいね」

「みんな、いいなあ――」


 と、レミアがポツリとつぶやく。


「おっ! じゃあレミアちゃんも一緒に来るか? 俺は大歓迎だぜぇ、こいつぁいいモノが拝めそうですなあ! ゲッへへへへ!」


 こいつぶん殴ってやる。

 俺は躊躇なく、後ろから親父に蹴りを入れた。

 全く同時にコークスさんも蹴りを入れていた。

 俺達は俺達で、気が合うみたいだ。

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