第32話 中級職人
ダルマールを撃退し、街を保護する生体結界を改革して上層に続く『光輪の階段』を開く事の了承も得ることができた。
後は、カイルと交換の約束をした街を護るための魔石鋼の武器を完成させる事が急務だ。
ダルマールはきっと手下を大量に連れて、街を襲いに来る。
それを俺達と魔石鋼の武器を持った街の人で撃退してやる! 圧倒的に返り討ちにしてやるのだ。
そうすれば、俺が遺していく武器が街を護れる事の証明にもなるだろう。
俺達はダルマールの撃退後、レミアの店に戻っていた。
やはりレミアとしては、慣れた環境で作業したかったらしい。
もう賽定の儀は廃止される事になり、カイルが街の人達の前で宣言していた。
だから、戻っても何も問題ない。
一番集中できる環境で魔石鋼の武器の仕上げをするつもりだ。
と言っても、土台となる武器造りの段階では、俺に出来る事は少ない。
レミアの作業を見守りながら、道具を運んだり、水を汲んできたり、手伝える事を手伝うくらいである。
ダルマールの襲撃があった日、レミアの作った武器は既に所持スキル上限数が1になっていた。
魔石鋼の武器として、ちゃんとしたものになっていたのだ。
だが、俺の考える武器の姿には、最低でも所持スキル上限数が2は欲しい。
製法の基本は合っている。後はより洗練するだけ。
レミアには申し訳ないが、頑張ってもらう他ない。他にアテはないのだ。
襲撃から数日、レミアは食事以外はロクに休みも取らず、作業に没頭していた。
今朝も、俺の目覚ましはレミアが魔石鋼の武器を打つ音だった。
「ん……ふぁ~……朝か」
俺は店の工房の裏のベッドで目を覚ます。
身を起こしてすぐに工房に入った。
「あ、ルネス! おはよう、ゴメンね起こしちゃった?」
額に滲む汗を拭いながら、レミアは笑顔を見せる。
「いや全然。レミアはちゃんと寝たか?」
「うん。仮眠はしてるし、御飯もルネスが作ってくれるし、全然元気だよ」
そうだといいが――
レミアが結構無茶をするのは、倒れるまで働いていたのを見たから分かっている。
俺が監視した上で仮眠を取らせたりはしているが――大丈夫だろうか。
「まあその位はさ――」
「いい主夫になれるんじゃねえか、なあルネス? お前将来はレミアちゃんに養ってもらえよ」
工房の棚に収められた頭蓋骨が、カタカタ動いて喋った。
スケルトン親父の体はバラバラに骨折してしまったので、今は喋るガイコツの置物になっていた。
一応、折れた骨は拾い集めては来たが――
今は親父の体の事より武器優先である。
しかしオーガ共が見たら喜んで蹴りそうなボールだな――
何だったか。サッカー? という遊びだと言っていたか?
「あははは。いやだヴェルネスタさん、ルネスはボクが養ったりしなくても立派にやって行けるよ?」
「そうかぁ? おいルネス、お前オーガをぶっ殺す以外に何ができるんだ?」
「……オーガに限らず、クズ共は容赦なく殺せるけどな?」
「もっと穏便な何かだよ! ぶっ殺すしか能がねえのか危ねえヤツだな。暴力は除く!」
「そうだな――まあ農作業かな。農家としてならやって行ける。野菜作りは得意だ」
「いいなあ……ルネスが育てたお野菜、食べてみたいよ」
「――ああ。いつか地上に戻れたら……そんな日が来るといいな」
「うん! あ、ねえねえルネス。また武器が出来たよ。これを見てくれる?」
「ん? おおー、綺麗に出来てるなぁ」
魔石鋼製の大斧である。
今までのモノより仕上がりが立派で、光沢も違い高級感があった。
俺はそれを王の眼で確認して――
魔石鋼の大斧
所持スキル上限数 :4
「!? うおおおおおおおおお!」
俺は思わず声を上げていた。
所持スキル上限数が4とは申し分ない!
これは完璧な仕上がりである。
「スキル上限が4もある! やったぞレミア! ありがとう!」
興奮した俺は思わずレミアを抱きしめていた。
「ほ、ホントに……!? あははは……やったぁ!」
喜ぶものの、レミアはちょっと身を堅くしていた。
いきなり抱きしめてしまって、驚かせたかもしれない。
「あ、わ、悪い――びっくりしたよな」
離すと、レミアは首を横に振る。
「ち、違うの……そのね、ボクずっと作業して汗臭いから……嫌じゃないよ」
はにかむ笑顔が可愛らしいのだが――俺はある事に気が付く。
レミアのスキルだ。
スキル1 :鍛冶職人(中級職人)(※固有スキル)
スキル2 :凍結魔術LV18
スキル3 :戦槌術LV26
スキル4 :筋力増幅LV12
鍛冶職人のランクが、下級職人から中級職人にアップしていたのだ。
「あ、レミア! 鍛冶職人のランクが上がってる! 中級職人だってさ」
「わ! ホントに!? 嬉しいっ! 職人として成長できたんだね!」
「あれだけ頑張っていたからな。腕も上がるってモンよ」
うんうんと、ガイコツが頷いていた。
「しかし、いいのが出来たな。今回は何か宝石も埋まってるんだな」
俺は魔石鋼の大斧を取り上げて、しげしげと眺める。
「うん。魔石を削り出した護符だよ。ヴェルネスタさんに削り方を教えて貰ってね。これを埋め込んだのも、スキルの数が増えるのに良かったかも」
「元はヒッポちゃんやらチャーミーちゃんの魔石だ。上質な魔石はうまく削れば、それだけでスキルの器になる」
「なるほど――」
しかしよく出来たものだ。本当にありがたい。
ならばこの先は俺の役目だ。
スキルを下賜して仕上げをしよう!
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