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第31話 カイルの演説

「諸君――僕はここに宣言する。今日を以って賽定の儀は廃止する。我々にはもう後戻りは許されない――! ダルマールは手下を引き連れ再び戻って来るだろうが、もう奴には屈さない。迎え撃って戦い、今度こそ平穏を取り戻すんだ!」


 慣れているのか、カイルは人前で演説をするのが上手い。

 その言葉に、聴衆達が大きく沸いていた。

 ここは賽定の儀が行われていた街の広場だ。

 あの時と同じように集まった多くの人々は、あの時と全く違う熱を帯びた、興奮に輝いた表情で壇上を見つめている。

 壇の上から見渡していると、それがよく分かった。

 正直、こんなに大勢の前に立たされると緊張してしまうが……

 ダルマールを撃退した興奮が冷めやらぬ中、カイルはここに人々を集めたのだ。

 それに俺も是非来てくれと連れて来られたのだった。


「何も恐れる事は無いよ。僕等には、あのダルマールを単身で追い詰めた勇者がついてくれている――ルネス・ノーティス殿だ! この英雄の来訪こそまさに、我らに与えられた天恵だと、僕は確信している!」


 カイルが大げさに俺を紹介した。

 そうすると、割れんばかりの大歓声が俺を包んだ。

 まるで地鳴りが起こったかのようで、皆の興奮が恐ろしいくらいに感じられる。

 一応こう、手を挙げて歓声に応じる素振りをすると、それだけで大きく歓声が上がる。


「す、すごいな……」


 その反応の大きさ、熱気には、俺の方が怯んでしまう。

 田舎者だからな――こういう事には慣れていない。


「ただ、皆に聞いておいて欲しい事がある。ルネス殿はダルマールとの戦いが済んだ後、この『帰らずの大迷宮』の上層へと登り、外の世界を目指すおつもりなんだ。そのためには上層へ続く『光輪の階段』を復活させるしかない」


 それを聞いた聴衆達は顔を見合わせる。

 上層への道――『光輪の階段』など、聞いたことが無いからだ。

 彼等はこの『帰らずの大迷宮』から出る方法は無く、この穴倉で生き永らえるしかないと考えているのだ。それが彼らにとっての世界だった。

 それは、過度の希望が逆に人を不幸にする事を案じた歴代の神子達の配慮だ。

 だがカイルは、真実を伝えようとしているらしい――


「皆が知らないのも無理は無いよ。これは代々の神子や神官長にのみ伝えられて来た事だから。『光輪の階段』は確かに存在する。けれど、太古の呪法によりその姿を変えられ、封印されているんだ。姿が変わったその姿こそ、僕らの街を覆う結界なんだ」


 ざわざわざわざわ――

 予想にもしなかった神子カイルの言葉に、聴衆達は戸惑っていた。


「何故、この事を伏せていたか疑問に思う者も多いと思う。それは、神子の証たる生体結界のスキルが存在する限り『光輪の階段』は封印されたままだからなんだ。皆も知る通り生体結界のスキルは、神子が死ぬと別の者に受け継がれる――受け継ぐ者がいなくなるまで、スキルは不滅だ。だから『光輪の階段』は、僕等がここに生きている限り、目にする事は出来なくなっていたんだ」


 さらに、聴衆の戸惑いが増す。

 話を聞く限り、それでは『光輪の階段』の復活は無理ではないか。

 ここで人が生きている限り、生体結界のスキルは消えないのだから。


「皆がそう思うのも当然だよ。これまではそうだった。だからこそ、この伝承は伏せられていた。先のあるのが絶望だけだからね。だがルネス殿が現れた以上、状況は変わったんだ。彼の持つスキル王権(レガリア)ならば、スキルを混ぜ合わせて別のものに改革(チェンジ)する事が出来る。つまり生体結界を消す事が出来る。『光輪の階段』を復活させる事が出来るんだ――」


 という事は――

 上層へ、そして外の世界へ、行く事が出来る――?

 しかし『光輪の階段』が復活するという事は、街を覆う結界が無くなる事だ――

 ならば、どうすればいいのか?

 いきなり突き付けられた事実に、住民達は頭を悩ませた。


「皆よく聞いて欲しいんだ。勇者ルネス殿は、結界の代わりに街を護る武器を授ける代わりに、生体結界を消させて欲しいと仰っている。ダルマールを倒して街の平和を取り戻した暁には――僕はそれを、むしろこちらからお願いしたいと考えているんだ。僕は地上を目指してみたい……本当の空や星や海と言うものを、この目で見たいんだ! それが僕達の先祖の見果てぬ夢だったはずだ! もう一度、地上に戻ろう! 全ては戦いの後の話になるけれど――『光輪の階段』を開くこと、どうか許してほしい……!」


 最後は熱っぽく、拳を握り固めてカイルは宣言した。

 やはり常に人を纏める立場にいる人間故か、カイルの話は聞きやすかった。

 最後は俺まで、聞いていて思わず熱くなってしまった。

 そしてそれは、聴衆達も同じ。

 カイルや俺を包むように、大きな拍手が湧き上がっていた。


「……みんなは認めてくれたみたいだ。『光輪の階段』を開くことをね」


 カイルが俺の横に並び、穏やかな笑顔を見せた。


「ああ。じゃあ後はやるだけだな――!」


 レミア達は魔石鋼(マナスティール)の武器を作るのに成功したようだ。

 それを仕上げて選抜した人間に配り、共にダルマールを迎え撃って倒す。

 そして上層へ向かう。

 上を――地上を目指すのだ。俺にはやるべきことがあるのだから。

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