第30話 内部爆破
「良かった! 待ってたんだから!」
「おいおい遅いんだよ! 俺を見ろよ、頭しかホネが残ってねえぞ!」
レミアと親父が口々に言う。
確かにスケルトン親父は頭蓋骨だけになって、レミアの腰のベルトを噛んでぶら下がっていた。
お洒落とはとても言えない、呪いのアクセサリーのようだ。
「おい、体はどこに行ったんだよ!?」
「……お前の足元だよく見ろ」
「ん――? うおおっ!?」
ボキボキに折れた骨の欠片が、足元に散乱していた。
俺はレミアと親父を潰そうとしていた大きな物体を支えている所である。
だから力を入れて踏ん張っている。
力を入れて踏ん張っているから、足元の骨は俺によってさらに細かく砕かれていた。
それはレミアも同じで、物体を押さえて踏ん張っているから、骨を踏みまくりである。
「わ、悪い親父――! これ直るのか……!?」
「あ、あとで集めて継ぎ接ぎして見る……ね?」
「今はいいから、さっさとこいつを片付けろ!」
「ああ――! うおおぉぉぉぉっっ!」
そのまま縮地を発動し、その速度が生む勢いで丸い物体を横に押しのけた。
それは暫く転がるとピタッと止まる。
ムクムクと人型の、巨大なオーガの姿になった。
こいつがオーガ共の長であるダルマールか――
名前 :ダルマール
年齢 :??
種族 :オーガ
レベル:38
HP :1112/1112
MP : 0/0
腕力 :311
体力 :380
敏捷 :268
精神 :235
魔力 :244
所持スキル上限数 :5
スキル1 :突然変異体(※固有スキル)
スキル2 :変身(※固有スキル)
スキル3 :自己再生(中)
スキル4 :剣術LV33
スキル5 :格闘術LV37
なるほど、これまでのヤツより更に強いか。
だが、カイルからあらかじめ聞いていた内容とほぼ変わらない。
俺がここの所魔石やスキルの収集に精を出していたのは、魔石鋼の武器造りだけが目的ではない。
このレベルを打ち破るために、自分を強くする意味もあった。
だから――こいつには負けない!
王権でスキルを集めらば集める程、俺は強くなれる。
その成長速度は、自分でも思うが本当に異常である。
「何だあああァァァ! テメエェェェェェ!」
いくら首領とはいえ、所詮オーガはオーガだ。
頭は弱そうである。
というより、頭がこうだから手下もああなのだろうか。
いや、頭がまともだとしても、あの馬鹿どもが何とかなるとは考え辛い。
やはり、種族としてダメなのだろう。
オーガは見かけたら即ゴミ掃除が一番だ。
「うるさいんだよ――! 黙ってろ!」
俺は縮地を発動する。
超高速で滑って行く視界を感じつつ、左右の剣を抜刀。
他から見たら瞬きする程度の僅かな時間で、ダルマールの肩口に駆け上がっていた。
そして、頬から口にかけてを、右の魔石鋼の剣で一閃する。
鋼のように、硬い手触り――
だが、剣の今の状態はこうだ。
魔石鋼の剣
所持スキル上限数 :2
スキル1 :火魔術LV31
スキル2 :爆裂魔術LV20
火魔術と爆裂魔術を重ねた影響か、火魔術のレベルが上がったからか――
剣の纏う炎の色は赤ではない。高温の炎の色を示す青となっていた。
それは、どろり、とヤツの硬質の皮膚を溶かして見せた。
ヤツの肉に食い込んだ魔石鋼の剣が、鉄の表皮に傷跡を残す。
「ガアアアァァァッ!? 熱いいいぃぃぃっ! いでえええぇぇぇぇぇッ!?」
流石にヤツの肌も固く、刃が通りはするものの、やや浅手だった。
しかしダルマールの奴は、この大騒ぎだ。
今まで自分は傷つくことなく、奪い殺すばかりだったのだろう。
だから自分自身は痛みへの耐性が無い。
ちょっと傷つけられただけで、大騒ぎをする。
――そんな奴は許さない。
俺は、クズには容赦しない主義だ!
「何を一発貰ったくらいで喚いてる!」
更に縮地を発動、その猛烈な勢いを乗せた斬撃を放つ。
それが、ヤツの膝のあたりを傷つける。
続いて腕。腹。背中と、刀傷を奴の体に刻み込んで行く。
ヤツの図体が大きいので逆に助かる。
まだ俺の縮地は、どうしても発動するとある程度移動してしまう。
普通の人間のような相手だと、通り過ぎてしまいやり辛いのだ。
極めれば剣を振る腕の動きだけに絞って高速化したりも出来るらしいが、俺にはまだまだである。
今は的が大きい方が、縮地の勢いを乗せた斬撃を当てやすい。
「ぐううううウゥゥゥゥゥッ!?」
いくつもの傷を負ったダルマールは、その場に膝をついた。
俺は、攻撃の手を緩めない。
縮地突きをヤツの二の腕に放つ。
先端が皮膚を溶かし、刀身が筋肉の中にずぶりと埋まる。
ヤツの巨体にとっては、針に刺された程度かも知れない。
だがこれはどうだ――!?
「剣よ――爆ぜろおおぉっ!」
爆裂魔術の能力である熱爆破を発動。
ドグゥゥゥンッ!
くぐもったような爆音が、その場に響く。
ヤツの二の腕内部で起きた爆発が、腕の肉を爆発四散させた。
下賜した爆裂魔術は、やや扱いが難しい。
単に力を発動させてしまうと、その場で爆破が起きる。
なので、自分自身が最も間近で巻き込まれるという事になる。
こうやって何かに突き刺した上で発動すると、内部爆発で済むため俺は影響を免れる。
接近戦かつ相手の体が大きい場合にこそ、最も効果を発揮するのだ。
たとえば今の場合のような――
カイルに聞いて用意しておいたダルマールへの対策が、功を奏した。
内部爆発が体の一部を吹き飛ばし、ヤツの腕が地面にボトリと落ちた。
「あぎゃあああああああァァァァァァッ!?」
これまでで最大の、悲鳴が上がる。
「ほら来いよ! 次は頭を吹き飛ばしてやる!」
俺はちょいちょい、と手招きする。
「うぐうううぅぅぅ……!」
しかし――逆上してかかってくると思ったが、ダルマールはそうしなかった。
「テメェら俺の逃げる時間を稼げエェェェ! こうなりゃ戦争だああぁァァァ! 全軍動員してぶっ殺してやるうぅぅぅ!」
ヤツは俺に背を向け、逃げを打ったのだ。
入れ替わるようにオーガ共が、必死に俺にかかってくる。
それをズタボロになぎ倒してやりながら、俺はヤツを追う事はしなかった。
全部の手下を連れてくるなら都合がいい。まとめて全滅させてやるまでだ。
この先の手間がかからなくて、むしろいいではないか。
敵の数が増えようが、こちらにも更なる戦力のアテがあるのだ。
望むところだ――その思いから、俺はあえてヤツを泳がせた。
もし来ないなら、こちらから行ってやるが。
「「「うおおおおおおおおおおお! やった、やったぞおぉぉぉぉぉ!」」」
「「「ダルマールを追い払った! 勝ったんだあああああぁぁっ!」」」
ダルマールが逃げ去り、手下のオーガ共も散り散りになると、街の兵士や住民達は驚くほど大きな叫び声、勝ち鬨を上げていた。
今まで余程溜まっていたものがあったのだろう。
泣き叫ぶ者も一人や二人ではなかった。
ヤツを直接的にぶちのめした俺は、喜んだ皆にもみくちゃにされた。
中でもコークスさんの歓喜っぷりは異常で、思い切り抱きつかれた上に頬ずりされた。
どうせ抱き着かれるならレミアが良かったな、などと思いつつ――
当のレミアは、親父の頭蓋骨を胸に抱えて、嬉しそうに俺を見守っていた。
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