第3話 隠し子
「ヴェルネスタ――って前の王様と同じ名前ですね……」
「ん? ああ本人本人。死んじまって化けて出たぜ」
「ええっ!?」
国王様が亡くなったのは知っていたが、目の前に化けて出てくるとは驚きだ。
「王権の行く先が気になってな。あれは血筋に遺伝するらしいからよ」
「……んん!? 血筋!?」
「ああ。お前は俺の子らしいな。どの女に産ませた子かは分からんが……その栗色の髪だと、アンナかマリーかローザか……みんないい女だったぜ」
「……」
「ん? 何だショックだったか?」
「いいえ――俺が父さん母さんの本当の息子じゃないとは知ってました。夜中話してるのを聞いてしまった事があります……本当の親には、一度会ってみたかったです」
「そうか、死んでて申し訳ねえがな」
「だけど……! なんでもっと早く出てきてくれなかったんです!? この力が分かってたら、俺は――!」
「うん? 俺がお前を見つけたのは地下牢にぶち込まれてる所だが、何かあったか?」
「……村が焼かれました。父さんも母さんも妹も、みんなあのダーヴィッツって男に殺されたんです! あの時俺にこの力があれば――」
「……そうか、そいつは俺のせいが大きいな。俺が暗殺されてなきゃ、お前に王権が行く事も無かったろう。済まなかったな」
「……あなたは、そんなに恨みを買ってたんですか? 確かにあなたの事を暴君だっていう奴等も多かったけど……」
ヴェルネスタ王はとても強い王、英雄だとそれは誰もが認めていた。
数多くの戦いで勝利し、一代でクリュー王国を興し大きくしたのだ。
元々は地方の下級騎士出身の叩き上げである。
だが俺達の住むユルゲン侯爵領リッカートの村では、王が戦費を欲しているからと税金を引き上げられたり、大事な収穫の時期に人手を取られたりという事が度々あった。
だから、確かに強い英雄だが、民の事を考えぬ暴君と言う者が多かった。
俺がその事を言うと、ヴェルネスタ王は苦い顔をする。
「……お前どこに住んでた?」
「ユルゲン侯爵領のリッカートの村です」
「ああ、ユルゲンの野郎のとこか。大方ヤツが私腹を肥やすために民衆から絞り上げるのを、俺のせいにしてたんだろうよ。そういう話は聞いてる。俺は民衆の税は下げるよう言ってたし、収穫の時期に人手を取ったりはしねえよ。だが貴族の領地はあくまで貴族どものものだからな。俺の言うことも聞くも聞かないも奴ら次第だ」
「そうなんですか!? 確かにユルゲン侯爵も評判は良くなかったけど……!」
「ま、仕方ねえ面もあるがな。俺は貴族制度の改革に手を付けようとしてたからな。既得権益を脅かされた奴らは、俺を貶めようとするだろうさ」
「あなたを暗殺したっていうのも、そういう奴らなんですか?」
「ああ。反対派の貴族どもが、俺の息子のライネルを抱き込んで――な。ダーヴィッツ達は恐らくライネルの部下だ。ライネルに王権が行かなかったものだから、市井の女に産ませた子達を探してたんだろう。その中の誰かに王権が行っているはずだからな。それを奪うつもりだったのさ。まあ致命的なミスを犯しやがったがな、王権は手の届かない『帰らずの大迷宮』の中だ」
「……なら俺はそのライネルって男を殺してやる。もちろんあのダーヴィッツも。俺の村を焼いて、家族を殺した奴は許さない。止めても無駄ですよ」
「止めやしねえよ。王権はもうお前のものだ。思う存分強くなって、ここから這い上がりな。お前ならそれができるさ」
「……ええ。それで、この『帰らずの大迷宮』ってどんなところなんです?」
「俺も知らんよ。大昔の賢者が作った、地の底の巨大な流刑地って話だがな。今更そんなものを持ち出すとは、得体の知れん奴らだ」
「……いまいち頼りにならないな」
「うるせーな。王権の使い方は教えてやったろ」
と、口答えするヴェルネスタ王の姿が急速に歪み、薄れていく。
「ん? あの王様! なんか姿がボヤけていってます!」
「ふむ……どうやらそう長居もできんらしいな。俺はもう消えるようだ。後は自分で頑張りな。草葉の陰から見守ってるぜ――」
「ちょ――ちょっと待って下さいよ!」
何かできることはないかと、俺は咄嗟に試してみることにした。
王権――徴発!
王の幽霊に徴発を発動。
俺の手の中に、スキルの光が現れる。
『王の眼』でそれを確認。
王の魂 :暴君とも名君とも呼ばれた強き王、ヴェルネスタの魂。
おおっ! 上手く徴発できたのか。
そしてそれを――
「王権――下賜!」
足元に転がるスケルトンの残骸に下賜してみた!
カタカタカタカタ――
骨が動き出し、人型へと組み上がっていった。
「……ふう! どうやら消えずに済んだみたいだな。ありがとよ!」
「言ったでしょ。本当の親には、一度会ってみたかったって。まだ消えるには早い」
「フッ。泣かせること言ってくれやがるぜ、ならばお前には父上と呼ぶ権利をやろう」
「いいです。骨にそんな事言う奴おかしいし。俺はこんな穴倉で死ぬのはごめんだ。絶対這い上がって奴らを斃す――! そのためにはあなたの力も借ります」
ヴェルネスタ王が宿った骨を『王の眼』で見てみる。
名前 :ヴェルネスタ
年齢 :??
種族 :スケルトン
レベル:5
HP :80/80
MP : 0/0
腕力 :20(4)
体力 :35(7)
敏捷 :20(4)
精神 :10(2)
魔力 : 5(1)
所持スキル上限数 :3
スキル1 :王の魂
「まあ、大して強くはないけど――」
「仕方ねえだろうがよ。この体はただのスケルトンだからな」
武器のスキルが何もないのがな。
俺が元になったスケルトンから剣術スキルを奪ったせいだ。
「元の体がありゃあ、こんな雑魚どもは無双してやれるんだがな」
「人は年を取るものです。過去の栄光ですよ」
「老いるってか、死んで骨になったわけだが……で、今の俺のステータスは?」
と聞いてくるので、口頭で答えた。
「ゴミみたいに弱ええ……おい、協力はしてやるが俺もちゃんと強くしろよ」
「分かってます。ふぅ……それにしても何か疲れたな。眩暈がする」
「王権を結構使ったからだろう。あれはMPも食うしな。まあ慣れだな。とにかく今は少し休んでな。俺が見張っててやるから、眠っててもいいぞ」
「ありがとう。頼みます」
こういう時二人だと助かるな、一人だとろくに休めもしない。
俺は近くの壁を背にし、座り込んだ。
ヴェルネスタ王のスケルトンは、敵のスケルトンが落とした剣を拾い上げる。
そして、俺が剣を貰った遺体に近づくと、フード付きの外套を脱がせた。
その端を剣で切り取り布を作ると、俺の腕の傷の上にきつく巻いた。
その手つきは手慣れていて、こういう経験が豊富なのだと伝わって来た。
自ら数多くの戦いを経験した結果なのだろう。流石叩き上げの王様だ。
「止血はちゃんとしとけ。後で厄介なことになりかねん」
「……ありがとうございます」
「それからよ。これでも一応親子なんだ、ざっくばらんに行こうぜぇ? タメ口で来いやタメ口で。きっと先はなげえんだ、肩の力を抜いて行こうや」
バシッと俺の肩を叩くと、ヴェルネスタ王のスケルトンは外套を自分で着込んだ。
「こうしとかねえと、他と見分けがつかねえだろ?」
「ははっ……そうだよな――じゃあ後は頼む。その……そうだな、親父」
「フッ。やめろよ、やる気にさせるんじゃねえ」
スケルトン親父は、ニヒルにそう笑うのだった。
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