表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/87

第28話 変身

 セクレトの住民、兵士達はダルマールと戦おうとするヴェルネスタとレミアの姿に感銘を受けていた。

 ヴェルネスタの見た目がスケルトンであることは、この際関係が無い。

 誰だって、生贄などにはなりたくはないのだから。

 レミアの言葉は、彼等にとっても全くの同感だった。

 彼等がダルマールを倒してくれるのなら、倒せるのなら――もう理不尽な死に怯える事もない。

 忘れていた希望というものを、彼等の姿が呼び起こさせるのだ。


「おいテメェらあぁぁぁぁ! 遊んでねえであいつをとっ捕まえろオォォッォォ!」


 素早い動きのヴェルネスタに苛立ち、ダルマールが配下のオーガ達に命じる。

 オーガ達が一斉に動き出し、ヴェルネスタをぐるりと取り囲んだ。


「よおおおぉぉし! 全員でタックルだあぁぁぁぁ!」

「俺の殺人タックルを見せてやるぜぇぇぇ!」

「相手はホネだがなあああぁぁっ!」

「んじゃホネ折りタックルだぁ! へし折ってやるぜえぇぇ!」

「折ってやるぜえぇぇ! このホネがあぁぁぁ!」


 いきり立つオーガ達にヴェルネスタはヤレヤレと肩をすくめる。


「うるせえ奴等だ。いいからさっさと来な」


 とはいえ流石に多勢に無勢か。

 生前の自分の肉体があれば、この程度どうという事は無いが、スケルトンの体で所持スキルも限られるとなると軽く全滅させるのは難しい。

 やはりルネスが戻るまでの時間稼ぎを主眼にする他は無いか。


「「「うおおおおおおおおおっ!」」」


 しかし状況に変化が訪れる。

 生き残っていた兵士達が雄たけびを上げ、ヴェルネスタを囲むオーガ達に突っ込んだのだ。

 その決死の勢いに、オーガ達の隊列が乱れる。


「おおやる気になりやがったか。いい事だ、自分も未来は自分で掴み取るモンだからな」


 王とは民を守り甘やかすのではなく、導き突き動かすもの。

 いくら強大でも、人間一人でできることは限られる。

 だから、その姿勢、言葉で多くの人間を動かさねばならない。

 今レミアが、それをやっていた。

 ドン底の時に出会った人間ほど、後々信用できる人物であったりするものだ。

 こんな地の底でルネスと出会ったレミアは、後々ルネスのいい嫁になるかも知れない。

 鍛冶職人としての腕も持ち、何かとルネスの支えになってくれるだろう。


「レミア! こっちはいい、兵隊の皆さんを助けてやりな! 死なせんようにな!」

「はいっ!」


 レミアも結界の中から出て、オーガの輪の中に攻撃を加える。

 遠くで群れている者達には、氷結魔術を打ち込む。

 近づいて来た者達は、鍛冶場から持って来た大金槌で叩きのめす。

 作成失敗した魔石鋼(マナスティール)製だが、レミアにとっては特に問題ない。

 武器作成のためにルネスが集めて来てくれた中から、戦槌術をレミアに直接下賜(グラント)してくれていたから。

 ルネスに教えてもらった、レミアの今のスキルはこうだ――


 スキル1 :鍛冶職人(下級職人)(※固有スキル)

 スキル2 :凍結魔術LV18

 スキル3 :戦槌術LV26

 スキル4 :筋力増幅LV12


 並のオーガはもう、恐怖するだけの対象ではない。

 戦える。戦って、倒せる。倒せるのだ。


 乱戦を繰り広げる手下たちの様子を見て、ダルマールは怒りで肩を震わせる。


「ぐぬうううぅぅぅ!」

「俺をやりたきゃ自分の手を動かしな! さぁ来いよ!」


 槍を構えたまま手招きをし、ヴェルネスタはダルマールを挑発する。


「へし折るうううぅゥゥッ!」


 巨大な鉈が地面に穴を穿つ。

 だがヴェルネスタを捉え切れてはいない。

 むしろいい踏み台ができたと、ヴェルネスタはダルマールの腕を駆け登る。

 肩まで飛び上がると、首筋の鎧の隙間に槍を突き立てる。

 筋肉が固く、押し戻されるような手触り。

 血は出るのだが、すぐに止まってしまう。

 先ほどから何度か攻撃を加えているが、傷の治りが早いのだ。

 これは、自己再生のスキルを持っているのかも知れない。

 だとしたら長引かせず、一気に倒さねばならないのだが――

 今の自分の体では、それは難しい相談だった。


「ったく早く帰って来いよなあ、あいつめ……」

「ぐっぞオォォォォぉ! おいホネぇ! てめーは俺を怒らせたアァァァ!」

「だから何だってんだ? 初めからぶち切れてるじゃねえか、お前さんはよ」

「るせえェェェェ! 腹が減るからやりたくなかったが、しょうがねエェェェ!」

「ん――!?」


 ダルマールは鉈を地面に突き刺すと、強く踏ん張り歯を食いしばって力を溜め始めた。


「ぐぎぎぎぎぎぃィィィッ!」


 ボコン! と巨大な体の筋肉が隆起する。

 肩、背中、腹、腕、太腿――あらゆる部分が隆起していく。

 膨張した肉が鎧を内から弾き飛ばし、身を纏うものがどんどん無くなっていく。


「これ以上デカくなるってのか!? だが――鎧が脱げてむしろ防御力は下がってるぜ!」


 ダルマールの変身を最後まで見る事無く、ヴェルネスタは突進して槍を突き出す。

 鋭い穂先の一撃が、ダルマールのむき出しの腿に刺さ――らなかった。

 むしろ穂先がひしゃげてしまう。


「!? 何ィ!?」


 見ると、ダルマールの皮膚は灰色の、金属のような硬質に変化しているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ