第27話 反抗
賽定の儀で選ばれた者は、神子の館に招かれ歓待を受ける。
そして、それを最後の思い出としてオーガ達の元へと差し出される。
神子の館での時間は、覚悟を決めるための時間。諦めるための時間だ。
今回の賽定の儀で選ばれた者達は、まだ神子の館に閉じ込められる前だった。
だから、まだまだ心の準備はできていない。
賽定の儀で選ばれているからと言って、急に生贄に出ろと言われても――
はいそうですかと、受け入れられるものでもない。
やはり、恐ろしい。
そんな事は聞いていない。自分はまだ嫌だと思ってしまう。
だから――
兵士達が目の前に来て彼等を連れて行こうとしても――
「い、いやだ……! 私はまだ――!」
「こんなの聞いていない! 俺達の番はもう少し先のはず! 他の奴を選べ!」
そして、その矛先はコークスの側までやって来ていたレミアにも向かう。
「まずレミアが行くべきだ! そもそも生贄に行ったはずなのになぜ無事なんだ!? 神官長! ひょっとしてあんた、自分の娘だからって匿って逃がしたんじゃないだろうな!?」
賽定の儀の生贄が決まっている者の一人から、そう意見が発せられる。
それは自分が助かりたいばかりのその場の凌ぎだったかも知れないが――
確実に、セクレトの街の人々の信頼関係に楔を打ち込んだ。
ざわざわと、人々が囁きだす。
「馬鹿を言うな、私はそのような事はせん! レミアは外からの転移者に助けてもらった
だけだ! 運が良かったんだ!」
しかし、一度生まれた疑念を払拭するには不十分だ。
「本当か……? どうにも――」
「神官長が、まさか……」
「信用できない! 俺達を信用させるならまずレミアからだ!」
それを聞き、コークスは唇を噛む。
「くっ……」
恐れていたことが起こった。
レミアが人々に見られることによって、こういう事を言い出す者が現れかねない――
コークスはそう考えていた。
だからこそ、レミアに神子の館に籠っている事を命じた。
誰だって、生贄になどなりたくない。
大切な家族を生贄に取られたくない。
あえてそんな事をするからには、それを主導する者の公平性が疑われてはならない。
もし疑われたのなら、疑いを晴らす方法は一つ――
レミアを再び、生贄に差し出す事だ。
だがそのような事――
大事な娘を二度も失えと言うのか――!
「お父さん。ボクが行くよ!」
レミアは眦を決し、そう述べる。
気は優しいが臆病なところがある娘にしては、表情も言葉も強かった。
「待てレミア! 二度もお前が行く事は……!」
「いいの! 出てきちゃったボクが悪いんだし――」
「そんな事はどうでもいい! 止めるんだ! 二度もお前を失わさせないでくれ!」
「大丈夫だよ。そうと決まったわけじゃないから!」
「そういうこった、まあそこで見てなよ」
ヴェルネスタがコークスの肩をポンと叩く。
そして、ダルマールの真ん前に進み出た。
「よぉ、デカブツ。てめぇの願い通り生贄はそこにいるぜ。持って行きな」
と、すぐ後ろのレミアを指差す。
「オオオォォォ! 旨そうな女だなアァァァ!」
結界の裂け目から腕を伸ばし、レミアの身を掴もうとして――
ドスッ!
ヴェルネスタの槍が、ダルマールの掌に突き刺さる。
そこから血が流れ出し、地面を汚す。
「――ただし、持って行けるもんなら……な」
「いでええぇぇぇぇ! この骨がアアアッ!」
「そんなでっかい図体がちょっと傷ついたくらいで、うるせえんだよ!」
ヴェルネスタは結界内に突き出されたダルマールの腕を伝って走った。
そして、結界の外へと身を躍らせる。
スケルトンであるヴェルネスタの体は、結界に触れると吹き飛ばされてしまう。
ダルマールが結界に穴をあけてくれて、むしろ助かった。
「オラアアァァァ!」
怒ったダルマールは、ヴェルネスタを叩き潰そうと鉈を振るう。
強烈な一撃が、激しく地面を撃つ。
「狂える天の冷たい息吹よ。凍てつく蒼の輝きとなれ!」
レミアは結界の内側から、ダルマールに向け氷結弾の魔術を放つ。
狙いは顔面につける。
たとえ直接ダメージが無くとも、目くらましになる。
ヴェルネスタが少しでも戦いやすくなる。
「うぐウゥッ!」
「ようし、いいぞ! そらそらそらアァッ!」
怯んだダルマールに、ヴェルネスタが更に突きを浴びせる。
ただし、ダルマールは鋼鉄の鎧を纏っている。
必然狙うのは鎧の隙間となり、深く槍が刺さらない。
致命傷までは、ほど遠いようだ。
コークスはいきなり強烈な魔術を放った我が娘に度肝を抜かれていた。
「レ、レミアお前……! それは一体――!?」
「ルネスの力だよ! お父さん、信じてなかったみたいだけど……!」
「あ、ああ……」
「ルネスはボクに力をくれるの! だからボク戦いたい! ごめんねお父さん……ボクはもう黙って生贄になってるだけなんて嫌なの! 絶対嫌だ! 他の誰もあんな目に遭わせたくないから――だから戦わせて!」
「レミア――しかし……!」
この抵抗が、後でとんでもない事態を生みはしないかと、コークスは思うのである。
もし、レミアたちが負けてしまったら――
その後でダルマールは、どんな恐ろしい報復に出るだろう。
何もしない方が良かったという事にも、なりかねない。
しかし、コークスにはもう止められなかった。
出来るのはただ、祈る事のみだった。
一日二回更新がちょっとキツくなってきましたので、次回から一日一回21:00頃で更新続けたいと思います。
また、感想については読ませて頂いていますが、返信考える&書く時間が取れません。。済みません。。




