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第26話 ダルマールの要求

「ダ……ダルマールの奴がやって来たぞーっ!」

「何をしに来たんだ――生贄の引き渡しの日には早過ぎるじゃないか!」

「分からん! だが、結界を破って街に侵入しようとしている!」

「神子様を……神子様をお呼びするんだっ!」

「いや、神子様は今外にお出かけだ! 留守になさっている!」

「ならば神官長殿に……!」

「ああ、わかった! 行こう!」

「他の者は皆街の入り口に集まれ! 第二門だ!」

「おお!」


 そんな喧騒が、レミアの耳にも入って来た。


「……ダルマールというと、オーガ共の頭だったな? そいつが現れたのか――」

「ど、どうしよう……! あいつが来たら、きっとロクな事にならないよ……! 武器もまだだし、ルネスもいないのに――!」

「まあ落ち着けよ。そんなに慌ててちゃ、出る力も出んぞ」

「あ……は、はい!」


 ヴェルネスタは落ち着き払っており、その余裕がレミアを少し冷静にしてくれた。

 いつみてもスケルトンで表情が殆ど無いから、冷静に見えるだけなのかもしれないが。


「ヤツがいないなら、俺達が何とかせにゃならん。ヤツと付き合って行くってのは、そういう事だ」

「そう……ですね」


 王権(レガリア)という超越的な力を持ち、虐げられる人を見捨てない。

 そういう生き方を貫くならば――

 今回だけでなくこの先も、同じような事が起こるはずだ。

 側にいられるのは、それに耐えられる人間だけ。強くならなくてはいけない。

 ヴェルネスタの言いたいことは、レミアにも何となく伝わった。


「覚悟はあるか? だったら行くぜ。ヤツが戻るまで、街を護ってやるさ」

「はい! 行きます!」

「よし、行くぜ。第二門だったな――!」


 ヴェルネスタは槍を携え、鍛冶場を出て行く。

 レミアもその後に続いた。


 ダルマールが現れたという門に向かって駆けながら――

 ヴェルネスタは背後のレミアに語り掛ける。


「フフッ。ありがとうよ、レミアちゃんよ」

「え――?」

「あいつが、村を焼かれてここに放り込まれたことは聞いてるだろ?」


 はい、とレミアは頷いた。

 そのことは、ルネスから教えてもらっていた。

 ひょっとしたら自分より悲惨な目に遭っているかもしれない。


「あいつが上を目指すのは、仇を討つため――つまり復讐のためだ」

「それが悪いことだとは――ボクは思いませんけど」

「いやそういう事じゃねえんだ。復讐は別に構わねえ。ただな、復讐のために生きてるやつは、それが終わった時に自分を見失いやすいもんだ」

「……」

「そんな時には、周りにいる人間がどういう奴かってのがモノを言う。特に――コレだ」


 ぴっとホネの小指が立つ。

 意味を察して、レミアの頬が少し上気する。


「そ、そんなボクは、その……」

「皆まで言うな。大丈夫だ脈はあるから、間違いねえ。親父様が太鼓判を押すぜぇ」

「ほ、ホントですか!?」

「おうよ。そもそもあいつは初心なだけでな。お前さんのそのムチムチした胸とかフトモモとか、チラチラ見てやがるぜ」

「うぅ……ええと、その――」


 初心なのはレミアも同じ。

 そんな言い方をされては、嬉しいかもしれないが恥ずかしくて何も言えなくなる。


「ま、そういう事だからな。その体でサクッとヤツを篭絡しちまって、ヤツの生きがいってやつになってくれ。それがあれば、自分を見失う事は無いからな」

「が、頑張ります……」


 恥ずかしさを堪えながら、レミアはそう応じる。


 第二門はもう、目に見える所まで近づいていた。

 そこには他に比べて明らかに巨大な、無骨な造りの鉈を携えたオーガの姿が。

 ヒッポちゃんやチャーミーちゃん達、大型のモンスターよりも更に一回り大きい。

 顔は硬質のマスクのようなもので覆っており、体も金属製の鎧を纏っている。

 野蛮なオーガにしては重武装である。

 目が爛々と輝き、怒り狂っているようにも見える。


「あれがダルマールか!?」

「そうです……! あいつのせいでボク等は――」

「なるほどな――なかなかのバケモンかも知れん」


 ダルマールが大きく振りかぶり、手に持っている鉈で結界に切りつけた。

 結界が大きくたわみ、一撃の衝撃で地面が揺れて砂塵が舞った。

 その迫力に門の所に集まっている兵士達はどよめき、怯む。

 更に遠巻きに様子を見ている街の住民達からは、悲鳴が上がった。


「だらあああぁあぁぁぁぁっ! てめえらかあああぁぁあぁl!? ヒッポちゃんとチャーミーちゃんを殺りやがったのはよオオォォォ!?」


 叫びながらダルマールは結界を更に一撃、二撃と殴りつける。

 結界が軋み、今にも破れそうになっている。

 やはりあの結界は、ダルマールほどの怪物は止めることができないのだ。


 集まった兵士達の中には、レミアの父の神官長コークスの姿もある。

 コークスはダルマールの矢面に立ち、制止を試みた。

 神子カイルが街を空けている以上、これが出来るのは自分しかいない。

 それを人任せにして逃げる事は、コークスにはできなかった。


「止せ! ダルマール! お前の言っている者の事など我々は知らない! 生贄の引き渡しまではまだ日があるはずだ! それまで街に近づかないでもらおう!」

「ああぁぁぁっ? 何様だぁああぁン? 俺のお情けで生きてるだけのエサの癖によぉ? てめえら皆殺しなんざ、カンタンに出来るんだぜぇ?」

「やって見るがいい! そうなればお前達も食うものが無くなって飢えるだけだ!」

「知らねえってのオォォォ! どっちが上かって話だよオォォォ!」


 ダルマールが鉈を振り下ろす。

 とうとう結界が限界を迎え、衝撃を受けた部分が破れ、穴が開いた。

 そのまま鉈は結界の中の第二門を打つ。

 轟音を立てて、門は半壊した。

 鉈の攻撃に巻き込まれた兵士が何人も、ただの肉塊となって果てた。


「……くっ――」


 コークスはその威力に戦慄するしかない。

 今の一撃が当たっていたら、自分の命はなかった。

 ダルマールが、コークスには当てなかっただけに過ぎない。


「オラああぁぁぁ! てめぇらこれでも食ってろオォォォ!」


 ダルマールは肉塊と化した兵士達の亡骸を掴むと、後方に投げ捨てた。

 そこにはダルマールに付いて来た手下のオーガ共がいる。


「ヒャッハー! 人間だああぁぁぁ~! うめぇええええぇぇ!」

「さっすがダルマール様は話が分かるぜぇぇぇぇ~!」

「理想の親分だぁぁぁぁ!」


 歓声を上げるオーガ達である。

 ダルマールはコークスに告げる。


「俺ぁカワイイィィィ~ペットちゃんたちを亡くして、悲しんでんだよォォォ!」

「だ、だから何だというんだ!?」

「気晴らしにパアッとやるしかねぇんだよオォォォ! 分かるかァァァ!? だから喰いモンの人間共を寄越せぇぇぇぇ!」

「それはまだ……! 約束の日はまだ先だろう!? 」

「関係ねえっつってんだろうがよォォォ! いつものとは別に、てめえらが俺様にご馳走して慰めんだよオォォォ! 食わせろオォォォォ!」


 ダルマールがそう要求すると、配下のオーガ達からヒャッホーと喜びの声が上がる。


「馬鹿を言うな……!」

「あああぁぁぁぁん!? ならこの場で皆殺しになるかアァァァア!?」


 轟音を上げて、さらにダルマールの得物が結界内に振り下ろされる。

 いくつもの悲鳴が上がり、更にその数だけの兵士が肉塊と化す。


「くっ……! やむを得ん、賽定の儀で選ばれた者達を、ここへ――!」


 コークスには、そう命を下す他は無かった。

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