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第25話 成果

 神子の館の外れ、古い鍛冶場――

 溶けた鉄が満たされた炉が、その場を熱気で満たしていた。

 鉄を打ち延ばす槌の音が、先程からずっと続いている。

 レミアはもう何度目になるか分からない魔石鋼(マナスティール)の武器の鍛造に挑んでいた。

 連日の作業で槌を振り過ぎたせいか、腕は鉛のように重い。

 だけど、そんな事は言っていられない。

 ルネスはとても重要な事を、レミアを信じて任せてくれたのだ。

 その信頼には、どうしても応えたかった。


 賽定の儀で選ばれてしまってからのレミアの日々は、ひどいものだった。

 誰もがレミアをもういないものとして、腫物のように扱う。

 例外だったのは父親のコークスや親方くらいだ。

 その日が近くなると、選ばれた人間たちは神子の館に呼ばれる。

 いい食事やいい部屋でもてなされるが、実際は逃亡せぬように監視するためだ。

 外出は許されず、もう街には戻れなかった。

 そして、親方にお別れも言えずオーガの下に生贄として引き渡された。


 恐ろしいオーガ達は、それはもう楽しそうに同じ人間達を嬲り殺しにして喰らった。

 レミアの目の前で殺された者は、一人や二人ではない。

 もう、どうにもならない。遅かれ早かれ自分もそうなる。

 それをまざまざと思い知らされ、発狂してしまう生贄の人間もいた。

 そんな恐怖と絶望を、レミアは誰よりも長く味わう事になった。

 生贄たちの中で、一番最後まで残されたのだ。

 若い女の肉が、最も美味だから――らしい。

 そして、次にあの扉が開いたら今度こそ自分の番――

 そう思っていた時に、あの倉庫の扉を開けたのはオーガ達ではなくルネスだった。


 ルネスはレミアの全てを引っ張り上げようと、力強く手を差し伸べてくれた。

 その笑顔は輝いて見えた。その手は温かかった。

 どれだけ嬉しかったか――どれだけほっとしたか分からない。

 我を忘れて泣き叫ぶレミアに、ルネスはそっとついていてくれた。

 そして――そんな風に優しいのに、この世のものとは思えない程強かった。

 それだけでなく、その力をレミアにまで分けてくれるのだ。

 自分がオーガを倒せるなんて、思ってもみなかった。

 少しだけでも、同じ生贄の人達の仇が討てた気がして嬉しかった。


 街に戻ってからも、兵士に拘束されそうになるレミアを助けてくれた。

 そして今も、街の人々全員を助けようとしている。

 ルネスはそう言ったら自分が上に行きたいからだと否定するだろうが――多分それが無くても、同じことをしていただろう。

 レミアや、街の事情を聞いて、自分の事のように怒っていたから。

 だからああ見えて、とても優しいのだ。異論は認めない。


 凄い力を持っているが、ごく普通の善良な少年なのである。

 ルネス自身も王権(レガリア)の力を得たのはごく最近だと言う。

 そのせいか、凄い人、偉い人という感じがしない。

 カイルからはそういうものを感じるのに。

 そういう普通の少年だからこそ――レミアはルネスを身近に感じられる。

 ルネスがレミアや街を救ってくれるのは、力によって作られた地位や名誉がそうさせるのではなく、元々のルネスの性格ゆえだ。

 ルネスなら何の力も無かったとしても、レミアを助けようとしてくれただろうし、街のために何かしようとしてくれただろう。

 レミアにはそれが分かった。そう信じている。

 元々レミアにとってルネスの見た目はちょっと好みだったりするので、少しだけ欲目も入っているかもしれないが――


 とにかく、ルネスが自分の力を必要としてくれるなら、全力で応えたい。

 ルネスの力になりたい。自分にして貰った分を、少しでも返すために。

 元々自分が志していた鍛冶の腕で貢献できるなら、これほど嬉しい事はない。

 レミアはそう強く思うのである。


「よし――これで……!」


 打ち終えた魔石鋼(マナスティール)を、油に漬けて冷やす焼き入れを行う。

 ジュッと立ち上る蒸気に包まれて現れた金属は、やや青みがかっていた。

 光沢も今までのものより強い。


「あ、ちょっと違う……? かも!」


 壁に背をもたれさせていたフード付きの外套をまとったスケルトンが、手を叩いた。


「いいぞ! こいつぁ恐らく成功だな!」


 見た目はスケルトンだが、魂はルネスの生き別れの父親なのだそうだ。

 もう見慣れたので、レミアにとっては特に問題ない。

 性格も明るくて話しやすいので、いい人だとレミアは思っている。

 実は地上の国の王様であったらしいが、そういう感じはあまりしない。

 親しみやすく、気さくなスケルトンさんである。

 もしかしたら、将来の義理の父親になるのかも知れないから、このスケルトンな見た目を人にどう説明するかは困ってしまうが――


「ほ、ホントに――? や、やった……! ありがとうございますっ!」


 今回はヴェルネスタのアドバイスで、幾つか鍛造工程を見直して臨んでいた。

 魔石鋼(マナスティール)は普通の鉄よりやや低い温度までしか熱さない事。

 それから、打ち延ばす時に力を入れ過ぎない事。

 魔石の成分は鉄に比べて壊れやすく、同じように扱うと普通の鉄に近くなってしまう。

 その事をヴェルネスタは指摘してくれた。

 また、魔石鋼(マナスティール)は作り手の精神の影響を受ける。

 だから強く集中するため、レミアはルネスの事を思いながら打ったのだ。


 その結果が――これだった。

 ルネスに見て貰うのが楽しみだ。


 と――


「うん、何か外が騒がしいな?」

「あ、そうですね――」


 聞き耳を立てる。

 そうすると喧騒の内容がはっきりと聞こえた。

 オーガの頭領、ダルマールがやって来た――

 そう兵士たちが騒いでいた。

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