第24話 交換条件
「天に遊びし清き精霊よ。怒りて切り裂く刃となれ」
真空の刃を発する風魔術が、幾つか集まったスライムの群れを切り刻む。
ピイィィィ! と悲鳴が耳に入って来る。
俺は自分の目の前の敵を斬り払いながらそれを見ていた。
中々役に立ってくれる。
魔術で遠距離広範囲に攻撃できる分、親父より殲滅力が高い。
魔術の能力については、かなり高いものを持っているから。
モンスターの集団が壊滅すると、俺はカイルに声をかける。
「よし、ここも片付いたな。ありがとうな、カイル。助かる」
「うん。しかし凄いものだね君の王権は――正統たる王のためのスキルというだけの事はある。これなら自分だけでなく周りも強く出来、最強の兵団を作る事も容易だね……」
カイルは魔術を放った自分の手をまじまじと見つめていた。
にわかには信じがたいといった表情だ。
浴場で会った時に、俺はカイルをモンスター狩りに誘ってみた。
意外な事にあっさりと承諾して、付いて来てくれる事になった。
コークスさんは心配して反対していた。
が、カイル自身が王権を見たがったのと、この間チャーミーちゃんが街にやって来た時に、カイルを助けていたことで信頼を得ていたのが大きい。
助けられた借りは返すよ、とカイルは言っていた。
実際カイルは魔術の適性が高いだけでなく、スキルの保持数が多い。
なので、多くの種類のスキルを持って帰る事が出来、その点でも助かる。
「こんなものがこの地底に持ち込まれた事は、まさに天恵だね……」
「大げさだな、俺は何にもできずに飛ばされただけだからな」
「だけど君は『光輪の階段』を復活させ、未来の希望を切り開こうとしてくれているんだろう? もしそうなれば、それは天恵としか言いようが無いよ」
カイルには既に、俺の計画は話してある。
つまり、生体結界のスキルを改革し、失わせてしまう事で『光輪の階段』を復活させる事だ。
ただし、それをしてしまうと上への道は開くかもしれないが残されたセクレトの街は結界の守りを失い無防備になる。
オーガの頭領には効かないかも知れないが、この間のチャーミーちゃんは結界で防げていたし、やはり身を護る盾としては強力だ。
それをただただ失えというのは酷な話だし、カイル達も首を縦に振らないだろう。
だから、身を護る盾の代わりに敵を討つ矛を残す。
攻撃は最大の防御。それが、俺の考えた事だった。
今レミアに造ってもらっている魔石鋼の武器がそれだ。
その武器に、最低二つのスキルを下賜させる。
それは武器術スキルと、自己再生だ。
例えば斧なら斧術スキルと自己再生になる。
そうすれば、誰が使っても強くなり、また自己再生するため失われることのない武器が出来上がるはず。
それをここに残して行けば、結界の代わりに街の人を護る力になるはずだ。
結界の代わりの武器を残すから、生体結界のスキルを改革させて欲しいというのが、俺がカイルに申し入れた事だった。
俺達が武器を用意するから、まずはそれを見て欲しいと話した。
カイル達は武器造りへの協力は約束してくれた。
そのため、レミアに神子の館の鍛冶場を貸してくれたのである。
「全部上手く行けばな。だけどいいのか? 神子様じゃなくなるんだぞ?」
「望むところだね……上への道が開き、神子も必要無くなるというなら――僕は地上を目指してみたい。この目で見てみたいんだ、本当の空や星や海と言うものを……だから僕は君を応援しているよ。神官長は半信半疑のようだけど」
「……頭が固そうだもんな、あの人」
「はははは。だけど悪い人間ではないよ。責任感と使命感が強過ぎるだけなんだ。レミアが生贄に取られることが決まった時――拳から血が流れる程に壁を殴りつけていたよ。先日無事に戻って来た時は、後で一人で泣いていたしね」
「カイルは何で盗み見ばっかりしてるんだよ」
「ふふふ。みんな僕を聖人君子だと思っているからね」
と、謎めいた笑みを浮かべるカイルである。
こいつは、意外と腹黒いのかもしれない。
「さ、次へ行こうか。沢山モンスターを狩って魔石とスキルを集めるんだろう?」
「ああ」
「収集は順調に行っているのかな?」
「そうだな、もう目標値に届きそうだ」
武器術のスキルレベルは35以上。
魔術のスキルレベルは25以上。
自己再生は自己再生(中)以上。
それを複数。これが目標値である。
後は筋力増幅等の強化系のスキルが欲しい。
カイルから教えてもらった、オーガの頭領のダルマールの能力を考慮した結果だ。
武器術系は武器を携えたスケルトンやゴブリン、そこらから生えてくるオーガ共から。
魔術スキルは、属性持ちの敵や魔術を使ってくるオーガ共から。
自己再生はスライム系。ここらに生息しているスライムは自己再生(小)しか持っていないので、いくつも改革で重ね合わせて(中)に強化する。
大体五十体分前後重ね合わせれば、(中)にランクが上がる。
あれから何日も気合を入れて収集に励んだ結果、ここまで集める事が出来た。
「後はレミアに任せるしかない――な」
セクレトの街では、オーガ共に定期的に生贄を差し出している。
この間の賽定の儀で選ばれた人達がそうなるまで、後10日ほど。
それまでの間に武器を完成させ、生贄の必要が無いようにしたい。
それを分かっているから、レミアもあれだけ根を詰めている。
「……うぅ……っ!?」
突如カイルが苦しみ出し、その場にうずくまってしまった。
「カイル! おい大丈夫か!?」
「ううぅ……これは――ヤツが来ているかも知れない――」
「何っ!? ダルマールって奴か……!?」
「うん――そうだね」
カイルは苦しそうに頷いた。
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