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第23話 レミアの頑張り

 太陽石の光もすっかり落ち、夜のような闇に辺りが包まれる事、俺達は街に戻った。

 神子の館に向かい、顔パスで中に入り、敷地の奥の離れへと向かった。

 そこに、今は使われなくなった古い鍛冶場がある。

 そこは今、レミアの作業場となっている。

 レミアの父コークスさんがレミアは人目に触れないようにと言うので、街中にある店を使わずにそこを使っている。

 今回の事が上手く行けば、レミアも街を出歩いて問題なくなるはずだ。

 だから今は、少々の辛抱だ。

 カーンカーンと鉄を打つ音が響くのを聞きつつ、俺達は鍛冶場に入る。


「レミア、ただいま」


 それを聞くとレミアは手を止め、笑顔を見せた。


「あ、ルネス。お帰りなさいっ」


 ……目の下に隈が出来ているように見える。


「なあレミア、ちゃんと寝てるのか?」

「え? うん大丈夫だよ! 元気元気!」


 嘘だな。間違いなく。

 一生懸命頑張る姿勢は健気で、ありがたくもある。

 だが――倒れられても困るから、適度に休憩は必要だ。


「ね、ルネス。今日は一つ武器が出来たよ。あれはどうかな?」


 鍛冶場の中には、鉄の溶けた炉もある。そのため、かなり熱くなっている

 額の汗を拭いつつ、レミアは壁際に立てかけられた斧を指差した。

 無骨なデザインの両手持ちの大斧だ。

 俺達が集めた魔石を総動員した魔石鋼(マナスティール)製だ。


「おお。どれどれ――」


 俺はそれをじっと見る――


 魔石鋼(マナスティール)の大斧

 所持スキル上限数 :0


「……う、うーむ――」


 俺の反応を見て、レミアは結果を察したようだ。


「あ――ダメだったかな……? うーん……ごめんね、次はもっと頑張るね!」


 レミアは失敗した魔石鋼(マナスティール)の大斧を、熱された炉に投げ入れる。

 もう何個も武器を試作しているが、なかなか上手く行っていない。

 スキルを下賜(グラント)する事が出来るものにならないのだ。


「結構難しいんだな、魔石鋼(マナスティール)の加工って」


 魔石鋼(マナスティール)の武器造りは、鍛冶職人にとっても難しい仕事のようだ。

 レミアの師匠は出来たらしいが、この街では他に出来る者はいないらしい。

 一番近いのは、その親方の仕事を手伝っていたレミアなのだ。

 とはいえ魔石鋼(マナスティール)は初めて扱うらしいが……

 レミアの店の親方だが、もう亡くなってしまったらしい。

 レミアが賽定の儀で生贄に選ばれ、オーガ共に連れて行かれた直後に病死だそうだ。

 元々高齢の上、レミアが選ばれたことにひどく気落ちしていたようだ。

 そうコークスさんが教えてくれた。


「そうだね――ボクの腕なんてまだまだだし……」


 レミアは炉をかき混ぜながら言う。


「だけどまだまだ――必ずちゃんとした武器を作って見せるから……だから、もう少しだけ待っててね」

「ああ。期待してるから」

「ま、これに関しちゃお前さんに任せる他はねえ。頑張ってくれや」

「うん。頑張るよ! じゃあさっそく、次の武器を……!」

「ちょっと休んだ方がいいんじゃないか?」

「え? 平気だよ。早くルネスの役に立ちたいもん、休んでいられな……あ……?」


 レミアの足元がフラついて、倒れそうになる。

 俺は素早く駆け寄って、抱き止めた。


「っと、やっぱり無理してるじゃないか。とにかく今日はゆっくり休もう」

「う、うん……ご、ごめんね――」


 俺はレミアを館の本館に運び、客室を借りてベッドに寝かせた。

 レミアはずっと鍛冶場で寝泊まりしていたようだ。

 まともなベッドで眠るのは久しぶりだろう。

 寝付くのを見守り、深く寝入っているのを確認すると、浴場で汗を流す事にした。

 結構大きくて、綺麗なので俺は気に入っていた。

 俺のいた村にはこんな施設は無かったから、非常に新鮮なのだ。


「よし。今日もこれでサッパリして、明日も魔物狩りだな」

「ああ。これで一日の疲れも吹っ飛ぶってモンよ」


 スケルトンは入浴禁止とは言われていないので、親父も一緒だ。


「ホネでも疲れるのか、親父」

「いや、気分的なモンだ。ついでに言うと湯の熱いぬるいもよく分からん」

「まぁそうだろうな。ホネだもんな」

「だが気分は悪かねえ、風情を楽しむのが大人の男ってもんだ」


 頭に布を乗せて湯船につかったスケルトンがグッと親指を立てるの図――

 一体何なんだこれは。奇妙と言うか、異常な絵である。


「しかし殺風景な空だな――」


 浴場の天井は一部がガラス張りになっていて、空が見えるようになっている。

 俺はそれを見上げながら呟いた。

 月のように控えめに煌めく太陽石以外、特に空には何もない。


「星が見えねえからなあ。しかし今頃、地上じゃどうなってるのかねえ」

王権(レガリア)目当てに、俺と同じ親父の隠し子をヤツらが探してるんだよな」

「ああ――そのはずだが。だがお前と同じようにここに飛ばされてくるヤツは見てねえ」

「……知らないうちに地下でモンスターにやられてるかもな」

「勿論その可能性もあるが――どうなんだろうな。奴等王権(レガリア)に気が付いた上でお前を飛ばした可能性もあるぜ。俺は王権(レガリア)を隠蔽できたと思っていたが、もしかしたら逆かも知れん」

「……今考えたってどうにもならないな」

「まあな。しかし俺と王権(レガリア)って重しがねえと、クリューって国は外敵も多いし内部の貴族どもも鼻持ちならねえ。えらい事になってなきゃいいが――王権(レガリア)もねえライネルに抑えられるようなもんじゃねえ。早いとこお前が戻らねえとな」


 骨の手がポンと俺の肩に乗る。

 この親父、俺に何か変な期待でもしているのだろうか。


「俺は政治なんか知らない。仇を討てればそれでいいんだよ」

「とは言えな。強い力には権力も人も寄って来るもんだ。それは覚悟しとくんだな。だからこそお前は、人を見る目ってのを養っとかなきゃならねえ。今みたいなドン底でこそ、信用できるヤツが見つかったりするもんだぜ」

「今考えるのはどう上に行くかってだけだろ。俺はバカだからな、そんなに多くの事は考えられない」

「フッ……そうでもねえと思うがな。ま、そうしとこうか」

「しかし、レミアは大丈夫かな……大分苦戦してるよな。倒れるまでやってるのに」

「その事だがな、明日から俺は残ってレミアの作業を見てようかと思う」

「ん? 何で?」

魔石鋼(マナスティール)の武器の製造工程は見た事があるから、何かアドバイス出来るかも知れん。いくら魔石やスキルを集めようと、その受け皿が無きゃ意味ねえだろ」


 それは確かに、親父の言う通りだ。


「……わかった、頼む。しかし、モンスター狩りの手が減るな」


 と、それまで二人きりだった浴場に、新たな人影が――


「おや? 先客かい?」

「ん? カイルか――」


 そういえば、カイルはスキル枠が多かったよな――

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