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第2話 『王権《レガリア》』

「……ここは?」


 目の前がクリアになると、俺は周囲を見渡した。

 とりあえず薄暗い。

 あちこちにこびりついている苔が薄く光っていて、わずかな光源になっている。

 地下遺跡のような場所なのだろうか。

 人工のものがひどく朽ちていったような雰囲気だ。


 これが『帰らずの大迷宮』なのだろうか。

 俺は立ち上がり、当てもなく歩き出す。

 とにかく、何か外に出る手掛かりを探さないと――


 だが数歩も行かないうちに、何かに足を取られる。


「……!」


 死体だった。

 体にべっとりと張り付いた血が固まり、少し腐臭もする。

 ここに送り込まれ、魔物にやられてしまった人なのだろう。

 フードのついた外套を羽織っている。

 手には剣を固く握りしめたままになっていた。


 俺は武器も何もなく、丸腰だった。


「……ごめんなさい。使わせて貰います」


 遺体の握る剣を、指を開かせて取り上げる。

 割と幅広の、造りのしっかりした両刃の直剣だ。

 剣の鞘を固定するベルトも、遺体から剥がした。

 そして遺体は仰向けに寝かせ、手を組ませて安置した。

 こんなこと、褒められた事ではないが、背に腹は代えられない。


 武器を得た俺だったが、それを使う機会は即座に訪れた。


 カラカラカラ――


 そんな乾いた音と、足音が俺の背後から迫って来た。

 気が付いて振り向くとそれは、剣を携えたスケルトンだった。

 俺に近寄ってくると、容赦なく剣の斬撃を繰り出してくる。


「っ!?」


 俺も剣を抜いて受ける。

 金属音と火花を散らしながら、二度、三度と剣を打ちつけ合った。


「こいつ――!?」


 強い! 正直、俺の方が押されていた。

 ヤツの剣が俺の腕をかすめる、浅く切り傷がつき、血が流れ出す。


「こんなところで死ねるかよ!」


 しかし俺の雄叫びも虚しく――


 カラカラカラ――


 もう一体!? いや二体!?

 スケルトンが現れ、それぞれに剣を向けてくる。

 まずい――一体でも苦戦しているのに、これでは――!


「ヤツに掌を向けて叫ぶか念じな! 王権(レガリア)――徴発(リムーブ)だ!」


 声!? どこだ!?

 しかしキョロキョロして探している余裕は俺にはない。


「早くしな! やられるぞ!」


 ええい! このままではどちらにしろ俺は死ぬ! 試すしかない!


王権(レガリア)――徴発(リムーブ)!」


 ドシュンと音を立て、スケルトンから小さな光の玉が抜け出て俺の手の中に。

 それは俺の掌から浸透し、体内に消えていった。

 ――これが何なんだ?


 確かめる前に、目の前のスケルトンが斬撃を繰り出してくる。

 俺はそれを避けねばならない。

 だが――

 次の一撃は、それまでの鋭い斬撃とは打って変わって、ひどいなまくら剣技だった。

 初めて剣を握るど素人のようだ。


「……!?」


 俺は首を傾げつつ、その剣を受け流す。

 横からは更に二体のスケルトンが迫っている。


「もう一度、やつらにもだ! 早くしな!」

「あ、ああ――!」


 王権(レガリア)――徴発(リムーブ)

 また同じように俺は二個の光の玉を受け取る。


 すると後から来たスケルトンたちの攻撃も、ひどいなまくらだった。

 これなら三体相手でも捌く事が出来そうだ。


「何が起こったかはわからないけど……! これなら!」

「あの光はスキルの輝きだ。お前が徴発(リムーブ)したんだよ。スキルを失って、敵さんなまくら化しちまったってわけだ」

「俺がそんな事――?」

「それだけじゃねえぞ。次は王権(レガリア)――改革(チェンジ)だやってみな」


 王権(レガリア)――改革(チェンジ)

 俺はそう強く念じる。


 どくん――と、体が震えた。

 体が熱い。急に力が湧き上がってきたような気がする。


「な……んだ?」

「さあ、蹴散らしてやりな!」

「うおおおおおおっ!」


 俺は本能のまま、スケルトンたちに剣を繰り出す。

 その剣の勢いが、俺の知っている俺ではなかった。

 力強さ、速さ、鋭さ。全てがまるで違った。これは一人前の戦士の剣である。

 俺は袈裟斬りの一刀で、スケルトンの体を断ち切っていた。

 返す逆袈裟でもう一体、更に胴斬りでもう一体と、簡単に斃せてしまった。

 凄い――! としか言いようがない。


「……な、なんだ? これが俺か……?」

「お前の剣術スキルを確認してみな」

「え? いや、俺に神託スキルはないし……魔法紙も持ってない」


 ステータスやスキルは、神託スキルを持つ神父さんの所ヘ行き、専用の魔法紙に書き出してもらわないと分からない。

 魔法紙もそう安くはなく、俺は一年に一回だけステータスを書き出して貰っていた。

 普段から剣の稽古を頑張って、年に一回の計測でスキルレベルが上がっていた時は凄く嬉しかったものだ。


「いらねえよ。今のお前には『王の眼』がある。念じるだけで頭に浮き上がるはずだ」

「……本当なのか?」


 言われた通りに念じてみる――俺のステータスが見たい! 見せてくれ俺!

 そうすると、脳裏に情報が浮き上がって来た。


 名前 :ルネス・ノーティス

 年齢 :17

 種族 :人間

 レベル:5


 HP :41/62

 MP :10/28


 腕力 :30(6)

 体力 :25(5)

 敏捷 :35(7)

 精神 :15(3)

 魔力 :20(4)


 ※()内は素質値。レベルアップ毎の上昇値。


 所持スキル上限数 :10


 スキル1 :王権(レガリア)(※固有スキル)

 スキル2 :剣術LV10


 見れた!

 それに、いつも魔法紙に書いてもらう内容より情報が多い。

 素質値だとか所持スキル上限数だとか、見たことがない。

 俺はスキルを10個も覚えられるのか……

 一般人なら、1~2個持っているだけなのが普通なのだ。


 そして――なんと剣術レベルが10になっていた。

 何が起きた!? 元々4のはずだ。

 そんなに上がったのなら、体感でまるで違うのも頷ける。


「レベル10……! 何でいきなりこんなに!」

「お前が魔物どもから徴発(リムーブ)した剣術スキルを改革(チェンジ)で合わせた結果だ。奴らのスキルとお前のスキルが、合わせてレベル10ってこったな」

「お。俺にそんな力が……!?」

「それだけじゃねえ。下賜(グラント)で人やモノにスキルを付加できる。王の眼に徴発(リムーブ)改革(チェンジ)下賜(グラント)の四つの能力を持つスキルが、王権(レガリア)だ。それがお前の力だよ」

王権(レガリア)……!? それはダーヴィッツ達が言ってた……!?」

「ああ。奴等が探していたスキルだ」


 確かに俺のスキル欄には王権(レガリア)の表記がある。


「だけど、じゃあさっき奴らは何でこれに気が付かなかったんだ?」

「そりゃあ、俺がお前に憑りついてステータスを隠蔽してたんだよ。俺の声、聞こえなかったか?」


 そういえば、目覚める前に何か聞こえたような気がする――


「それより、あなたは何者です!? どこにいるんだ!?」

「ん? おお、上を見てみな」


 俺が上を向くと、そこには青白く半透明になった人影が。

 幽霊――というやつだろうか? 40歳前後の中年の姿だった。

 体格は立派でがっちりしており、顔立ちも精悍である。

 鍛え抜かれた戦士という感じがした。


「な……ゆ、幽霊――!?」

「よっ。まあそんなとこだ。俺はヴェルネスタ。今はお前が持ってる王権(レガリア)の前の持ち主だ、よろしくな」


 幽霊の中年は、死んでいるくせに妙にカラッとした笑顔を浮かべるのだった。

 ヴェルネスタ――?

 それって、この間亡くなったっていう国王様の名前だよな……?

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