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第17話 上層への道筋

「ど、どうぞ中に……!」


 怯えた様子の兵士が、俺達を呼びに出てきた。


「よし行こうか」

「う、うん――」


 俺達は兵士に先導され、館の中を進んだ。

 中はかなり広く、内装の雰囲気も派手ではないが綺麗である。

 恥ずかしながら俺は田舎者で、お城にも入ったことが無い。

 今までの人生で見た中で、一番上等な屋敷かも知れない。


「こちらにどうぞ!」


 飾りのついた扉の、応接室のような所に通された。

 罠を張って騙し討ち――のようなことも想定していたが、今の所なさそうである。


「お掛けになってお待ちを!」


 ソファーを勧められた。

 ひとまず大人しく座っておく。


「こんな地の底にも、こんな大きい屋敷があるんだな……」


 部屋の中を見渡し、思わずそう漏らしていた。


「地上には、もっと大きくて綺麗な所なんていっぱいあるんじゃないの?」

「いや、俺は田舎者だし村で農家やってただけだし、こういう所は縁が無くて」


 と、部屋の扉が開き、紫の司祭衣を纏った初老の男が入って来た。

 広場で見た賽定の儀にもいたような気がする。


「レミア――!」


 かなり慌てている様子で、息を切らせている。


「お父さん……!」

「えええええぇぇっ!?」


 聞いていなかった! この人は、多分この街の偉い人だろう……!?


「あ、初めまして、ルネス・ノーティスです。娘さんにはいつもお世話になって……」


 一応、田舎者なりにちゃんと挨拶しておいた。


「あ、ああ――君は、外から来たという転移者か……?」

「はい」

「そうか、こんな事は初めてだ……私はコークス・レインドル。レミアの父でこのセクレトの街の神官長をしている」

「神官長?」

「神子さまが一番偉くてね。それを補佐する人だから二番目だよ」


 と、レミアが耳打ちしてくれた。


「君がレミアを助けてくれたのか……?」

「たまたまですけど」

「父親として、また神官長としても礼を言う。どうもありがとう」


 丁寧に頭を下げられた。

 そんなに悪い人というわけでもないようだ。


「いえ。オーガ共に食わせてやる人間なんて、誰一人いませんから」

「そうか……そうであって欲しいものだ――」


 コークスさんは何かばつが悪そうにしている。

 オーガ共に生贄を出すのを認めているのだから、そうなるのも無理はない。

 俺の言葉には、若干の棘も含まれていたのだ。


「お父さん、その……た、ただいま――」


 レミアが恐る恐る、コークスさんにそう言った。


「ああ! お帰りレミア……!」


 コークスさんはレミアを強く抱きしめた。

 レミアも涙ぐみながら、コークスさんに応じていた。


 親子か――いいな……

 俺と親父がああなったら――スケルトンに抱き着く趣味のある変態と見做されるな。

 暫く黙って様子を見守った後、俺はコークスさんに尋ねる。


「それで、兵士の人達がレミアを拘束と言ってたんですが――?」

「何? 手荒な真似はしないようにとは言っておいたが……だが、連れてくるように言ったのは事実だ」

「単にレミアと再会を喜びたかったと?」

「勿論それもあるが……レミア、お前は人目に付いてはいけない。館に身を隠しなさい」

「えっ? お父さん、どうして?」

「今まで生贄に出されて戻った人間はいないんだ。お前がルネス君に助けられたのは事実なのだろうが、周囲はそうは見ない。私が神官長の立場を利用して、自分の娘だけは裏で手を回して助けたと見るだろう。そうなれば、賽定の儀への信頼が揺らいでしまう……誰も私達を信じなくなる」


 コークスさんは言いながら、しゅんと肩を落としてしまう。

 余談だが、その仕草はレミアにそっくりだった。やはり親子だ。

 こんな事は言いたくないのだろう。

 意地悪な捉え方をすれば、レミアが厄介事の種だと言っているのと同じなのだ。

 だが神官長の立場としては、それを言わなければならない。

 板挟み。この人も辛いのだろう。

 俺は腹を立てて怒る気にはなれなかった。


「そっか……そうだよね――やっぱりボクは……」


 レミアもしゅんとしてしまう。

 親子が目の前で同じ仕草をしている。


「ごめんなさい、お父さん。やっぱりボクが戻ってきたら、迷惑かけちゃうね……」

「い、いやそうじゃない! そうじゃないんだ、レミア……! お前は私が護るから、ここにいていいんだ……!」

「ううん、いいの――あのねお父さん、聞いてくれる? ボクね、ルネスと一緒に『帰らずの大迷宮』の出口を捜しに行こうと思うの。だから街を出るね……そうすれば迷惑はかけないから――最後に一目会えて嬉しかった……」

「レミア……! そんな、お前――!」


 レミアの涙を見るのは、何度目だろう。

 この娘ばかり泣かして、この世界は一体どうなっているのか。ひどい話だ。


「……行こ。ルネス」


 レミアが俺の袖を掴む。

 立ち去る前に、一つ聞いておきたいことがあった。


「俺――どうしても『帰らずの大迷宮』の外に出なきゃいけないんです。何か方法を知りませんか?」

「それは――僕からお話しした方がいいだろうね」


 不意に別方向から声が割り込む。

 見ると、白い神官衣を纏った青年の姿があった。

 こちらも賽定の儀で見た記憶がある。

 無表情であの命を選別する賽を回していたのが印象的だった。

 今はその時の無表情ではなく、柔和な表情をした穏やかな雰囲気である。

 年齢は俺より二つ三つ上だろう。


「ルネス――だったね。僕はカイル・ロット。結界を司る神子と呼ばれている者だよ。どうぞよろしく」

「どうも、よろしくお願いします――」

「畏まらなくてもいいよ。年も近いし、カイルでいい。同年代の友人がいなくてね」

「……分かった。しかし友達がいないって自分で言うなんて、寂しいな?」


 カイルの希望通りにしてみる。冗談のおまけつきで。

 しかしカイルは笑顔を崩さない。聖人君子然としている。


「仕方ないね。僕は人の命を選別してオーガに捧げるような死神だから」


 やや自虐的な、カイルの物言いだった。


「……それで、『帰らずの大迷宮』の出口の事を教えてくれないか?」

「……これから話す事は他言無用にして欲しい。レミアを救ってくれた君への感謝を表すために教えるよ――いいかな?」


 俺とレミアは、揃って頷いた。


「『帰らずの大迷宮』は、複数の層に分かれているとの伝承があるんだ……ここはその最下層だね。いくつ層があるか、僕にも詳しい事は分からない。ただ、君が外に出たいなら上の階層を目指す必要がある。そして上を目指すには――」

「目指すには――?」

「この街の人間を、全員殺す必要があるね」

「……何だって――!?」

「ええええぇぇっ!?」


 俺とレミアの驚きの声が、部屋にこだました。

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