第14話 縮地
俺は雷光魔術LV13同士を改革結果を確認した。
改革結果1:雷光魔術LV上昇
改革結果2:縮地
「おお。親父の言う通り縮地がある」
「おっ。そうか。じゃあ改革してみな。きっと気に入るぜ」
「よし、王権――改革!」
青っぽい縮地のスキルの輝きが、俺の手の中に現れた。
そして俺自身に下賜。
これで縮地LV13が俺のスキルにセットされた。
「試してみるか――」
「目標の位置をしっかり見てな。距離は無い、俺はあそこにいる――と心で念じながら思いっきり踏み出す! まあ習うより慣れろだな、やってみろよ」
「ようし――」
やや離れた所に、木と茂みが見える。
早歩きで20数えるくらいの距離だ。
あれを目標にする。
距離は無い、俺がいるのはあそこ――あそこだ!
心で念じて、強く地面を蹴る。
――縮地ッ!
ブゥン――! と視界が歪んだ。
超高速で景色が進み、俺は一瞬にして目的としていた木の前に立っていた。
「おお……これは凄いな」
今度は親父達の目の前に戻るのを目標に――
ブゥン――! と再び視界が歪む。
一瞬で俺は親父とレミアの前に戻っていた。
「ルネス! すごーい! 全然見えなかったよ!」
「いいぞルネス。まあうまく使えてるんじゃねえか?」
「褒めても何も出ないぞ? しかし確かにいいな、これは」
凄まじい速さは凄まじい爽快感を生み出すのである。
使っていて気持ちがいいスキルだ。
俺はもう一度、先程の木に視線を向けた。
まだ試しておきたいことがある。
魔石鋼の剣を突き出しに構えると同時、俺は強く念じる。
――縮地ッ!
ブゥン――! 視界が歪み――。
ドガアアアァァッ! メリメリメリイイィィィ!
突き出した剣先が木にぶち当たる衝撃音。
続いて激しく傷ついた木が、軋んで折れて行く音。
俺の突きは決して細くない木を簡単にへし折っていたのだ。
縮地の速度がモロに突きに乗るからな――
威力も凄いし、何よりこの速さから逃れるのは至難の業だろう。
予期していない限り、避けるのは不可能である。
縮地突き――とでも言えばいいか。
中々の技だろう。
「これはいい感じだな――使えそうだ」
その時ふと、近くの茂みから何かが飛び出してきた!
「人間だああぁぁぁ~! ヒャ……」
――縮地突き!
「ぐげぶえええええぇぇぇ!?」
喉元を貫かれ血を噴き出して倒れる野良オーガ。
ったく油断も隙も無い。
あいつらはいつどこから生えてくるか分からないのだ。
しかしこのスキルは、やはりいい。
おかげで、茂みから飛び出してきたヤツの「ヒャッハー」を聞かずに済んだ。
聞く前に踏み込んで黙らせる事が出来るのだ。
対あのくそったれな生き物共には、特に活躍してくれそうだ。
作戦は耳を汚される前に倒す――だ。
「よし、スキルの整理は終わった。街へ急ごう」
俺達は再び街に向けて進んだ――
◆◇◆
そしてそれから二日ほど進み――
いよいよ、レミアの知る唯一の人里――セクレトの街が見えて来た。
思っていたよりは遥かに大きい、立派な街だった。
とはいえ俺の故郷の村の何倍あるんだろうか――
それはさて置き、ここには大きな特徴がある。
街全体を、半球状の光膜が覆っているのだ。
光膜の表面には魔術による文字が浮き上がっていた。
「なんだあの光は……?」
「結界の一種だろうな。なかなか強力なやつだ」
と、親父が述べる。
「うん――結界を司る神子様がいて、その力で結界が維持されているの」
「なるほど……いやちょっと待て。これだけのものがありながら、何でオーガ共に命乞いして生贄まで差し出す? オーガ共にこれが破れるとも思えんが――」
その疑問はもっともだと俺も思う。
生贄を差し出すなど、余程の事が無い限り許されないだろう。
「確かに普通のモンスターやオーガには、この結界を破れないんだけど――」
「……普通じゃないのがいる?」
「うん。ダルマールっていうオーガ達の頭目が……あいつは結界を破って街に攻め入った事があるらしいの。それからあいつには生贄を差し出す代わりに、街の中には入らないって約束になったんだって――ボクがまだ小さな子供の頃の話だけど」
レミアの話を聞きながら、俺達は結界の境界に差し掛かる。
街の外門よりさらに少し先に、その境界地点がある。
俺とレミアと馬車は何ら問題なく通り抜けて中に入れた。
だが――
「うごああああぁぁぁっ!?」
親父は結界に触れると、凄い勢いで外に吹っ飛ばされた。
全身をカクカク震えさせつつ、何とか立ち上がる。
「なるほど……モンスターが触れるとああなるんだな?」
「あはははは――」
「しかし参ったな。親父だけ外で留守番なのか?」
「いや、俺の身体を走爬竜にしろ。それなら大丈夫だろ?」
「ああ。王権――徴発、王権――下賜」
カランと骨が崩れ落ちる。
俺とレミアはそれを集めて馬車に積んだ。
そしてそのまま結界を通ろうと試みて――問題なく通過した。
魂が入っていないと、スケルトンではなくただの骨で、結界には弾かれないようだ。
街の外門に到達すると、そこには門番の兵士達がいた。
その中の一人が、レミアを見かけて駆け寄って来た。
四十がらみのやや痩せた男性だ。
「レミア――レミアじゃないか! 無事だったのか!」
「あ……レントンさん! この人達が助けてくれて――」
と、俺と走爬竜親父を振り向くのだが――
「達? 一人だよな?」
レントンさんと呼ばれた兵士は首を捻る。
「あ――はははは。疲れちゃったのかな。この人に助けて貰ったんです」
「君は、見ない顔だけど……?」
「あ、はい。つい最近『帰らずの大迷宮』に飛ばされてきたもので」
「ええええええっ!? 外からの転移者か! そうか、そいつは災難だったな……」
「大丈夫。もう気持ちの切り替えもできてます」
「そうか。じゃあレミアが無事だった事と、転移者が来た事は上に報告しておくよ。君たちはレミアの店に戻るんだろう?」
「は、はい……そのつもりです」
「分かった。じゃあ通って構わないよ。ゆっくり休むといい」
俺達はレントンさんに礼を言い、門をくぐって街中に入った。
「別に何も言われなかったな。生贄なのに――とかはさ」
「う、うん……そうだね。でもレントンさん、いい人だから……」
「他の奴は何を考えているか分からんぞ。人間ってのは、縁のない奴には驚くほど冷酷になれるモンだからな」
走爬竜親父が渋く語った。
俺はそれを聞きつつ、周囲を見渡していた。
中の様子は、やはり相当に立派だ。
ここが『帰らずの大迷宮』の中でないのなら、何の変哲もない上品な街と言える。
レミアの案内で、俺達は大通りを進む。
途中広場に突き当たった。
だが何か物々しかった。異様に多くの人間が集まっているのだ。
祭りのような和やかさは一切無く、ピンと張り詰めた雰囲気だった。
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