第13話 スキル整理
スケルトン親父が御者をする幌馬車は、宙に浮かぶ太陽石を目指して進む。
俺も御者台に出て、周囲の景色を眺めていた。
基本的には砂塵の舞う荒野。
だが所々に林や小川というものも見える。
これがダンジョンの中とは――
しかも、夕暮れのような茜色まで再現されていた。
そう、今は太陽石が色を変えて夕暮れの太陽の色になっていた。
レミアの話によると、夜は暗くなり月のようにわずかに輝くのだと言う。
あれがあるから、この『帰らずの大迷宮』の中でも人が生きていける。
レミア達の先祖は、少なくとも数百年前にはこの『帰らずの大迷宮』にいたらしい。
それだけの間、太陽石が人間の生活を支えていたのだ。
凄い代物だな、あれは――
だが俺はあれに長々世話になっていられない。
こんなところに永住などできない。
必ずここから這い上がるぞ。
決意を新たに、俺は手持ちのスキルの整理を行う事にする。
ヒッポちゃんから徴発したスキルが、まだ手付かずのままなのだ。
改革するなりそのまま使うなり、考えておかないと。
スキル枠を空けておかないと、次を徴発しても置き場に困る。
今の俺のスキル状況はこうだ――
スキル1 :王権レガリア(※固有スキル)
スキル2 :二刀流(剣)LV12
スキル3 :格闘術LV13
スキル4 :筋力増幅LV11
スキル5 :斧術LV10
スキル6 :雷光魔術LV13
スキル7 :風魔術LV15
スキル8 :格闘術LV20
大分増えてきたな。
あと魔石鋼の剣はこのままで変わらない。
魔石鋼の剣
所持スキル上限数 :2
スキル1 :火魔術LV17
スキル2 :なし
さて、まず格闘術が二個あるのが目についた。
改革するか?
後で他の誰かに渡すために、あえて置いておくか?
これもレミアに渡しておいてもいいかも知れない。
親父は槍術と筋力増幅だから、特に必要がないし。
と、ふと俺は閃いた。
武器側に武器スキルがあったらどうなるんだ――?
持ったら誰でも強くなるのか?
試してみるか。
「王権――下賜!」
魔石鋼の剣
所持スキル上限数 :2
スキル1 :火魔術LV17
スキル2 :格闘術LV13
うん。剣を持つと格闘が強くなる? という謎性能だ。
試してみたいので、レミアを呼ぶ。
「親父、ちょっと止めてくれ」
「ああ。どうした?」
「ちょっと試してみたい事があってさ。レミア、外に出てきてくれ」
言いながら俺も地面に降りた。
「うん。なあに? ルネス」
「ああ、ちょっとこれを持ってくれ」
「わかった」
魔石鋼の剣を手渡した。
「で、ちょっと格闘の動きをしてみてくれ。拳とか蹴りとかさ」
「はあ……? ボク格闘なんてできないよ?」
「いいからいいから!」
「じゃあ――えぇいっ……ってぇええぇぇぇ!?」
シュッシュと繰り出される拳の動きは、なかなか流暢なもの。
上段下段と連続して繰り出される回し蹴りも鋭かった。
形のいい白い生足が閃くその様は、少々艶めかしくもある。
いい動きだ。ただしレミアの場合力が弱いので、威力はそれ程でもないが。
「お、おかしいよ……! ボクがこんなに動けるはずがないのに――!」
「なるほどな。武器に武器スキルを下賜するとこうなるんだな。じゃあ次に剣を返してもらえるか? で、同じ動きを」
「よっ! はっ! はああぁっ――ってきゃああぁぁっ!?」
あ、勢い余って尻もちをついてしまった。
完全に素人の動きになっている。
「うー……ダメ、全然できなくなっちゃった――」
「ああ、ありがとうな。よく分かった」
なるほど武器スキルの下賜はこうなのだ。
素人が持っても、実力をその水準に引き上げる武器になれる。
これは結構面白い現象である。覚えておこう。
さて格闘術の行く先だが――やはりレミアに渡しておくことにする。
魔術を使うMPが無くなったら、危険だ。護身術があった方がいい。
「レミア。さっきの動きができるようにしておくからな。王権――徴発、下賜」
魔石鋼の剣の格闘術をレミアに移した。
「ほら、これでまた動ける」
「――わ! ホントだ……! ルネスってホント凄いね……! こんな事できるなんて、まるで神様か何かだよ」
と大げさな事を言いながら、レミアは嬉しそうに格闘術を試していた。
「あとは風魔術と雷光魔術をどうするかだな――」
俺は改革の結果を見て行く。
雷光魔術と風魔術の組み合わせは――?
改革結果1:雷光魔術LV上昇
なら、雷光魔術と魔石鋼の剣の火魔術の組み合わせは――?
改革結果1:雷光魔術LV上昇
「あれ?」
「どうしたルネス?」
「いや、雷光魔術に風魔術を改革しても火魔術を改革しても、結果が雷光魔術LV上昇だったんだ」
「そりゃあれだ、雷光魔術が火魔術と風魔術を合わせた上位属性だからさ」
「ああ、そういう事になってるのか」
「ちなみに火と土で爆裂、水と土で森林、水と風で凍結だな」
「あ、ボク凍結魔術だよね? 上位魔術なんて貰ってゴメンね。返そうか?」
「言ったろ。あれはもうレミアのものだ。いらなくなった以外で返さなくていい」
「ルネス……ありがとうね!」
「気にしなくていいよ、大した事じゃない。しかし……じゃあどうするかな。火魔術と風魔術合わせても雷光魔術が二つになるだけか」
「フム……雷光魔術二つか、面白いかもしれんぞ? 雷光魔術の同レベル同士限定で、結果のスキルが縮地になったはずだ」
「何なんだそれは?」
「高速移動ができる。MPを食うがな。近接戦の切り札にもなるし、単に早く移動したいときにも便利だ」
「親父も使っていたのか?」
「ああ。限定条件だから、ひょっとしたらお前には出ないかも知れんが……二刀流は俺には出なかったからな」
「なるほど……試してみるか?」
もし失敗したとしても、雷光魔術は残る。
その場合魔石鋼の剣には、雷光魔術を下賜すればいい。
使い慣れた火魔術とお別れするのは少し寂しいが――
それもまたスキルを徴発してくればいいのだ。
何だったら徴発しに戻ってもいい。
「よし、じゃあ乗せられてみよう。王権――改革!」
火魔術と風魔術を改革した。
出来上がったのは、雷光魔術のLV13。
お、運がいい!
調整なしで雷光魔術同士のレベルが揃ったぞ!
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