第12話 レミア・レインドル
俺は幌馬車の後方から顔を出し、後方を探った。やはりオーガ共だ。
走爬竜数頭立ての戦車のようなものに、三体ずつ。
それが三台の計九体。
「おっ人間だぜえええぇ! ヒャッホー! ごちそうだ~!」
「人間は上が持って行っちまうからなぁ! こりゃあツイてるぞ!」
「ギャハハハハ! 最近ご無沙汰だったからなぁ! 肉だ肉だ、肉フェスだ~!」
レミアが俺と同じく馬車から顔を出した。
「や、やっぱりボクらを食べるつもりだ……!」
「おおおおおー! 二匹いるぜぇ~! ごっつぁんでーす!」
「ひいいいぃ――!」
「大丈夫だ、俺が倒す。ったく汚ない声だよな……!」
知性のかけらも感じないゲヒャゲヒャ笑い。
俺はあれが生理的に受け付けない。
村で育てていた野菜を途中で食べてしまう害虫より嫌いだろう。
「やれやれ、あいつらの低能な声を聴いてると耳が腐っちまう」
いや、腐る耳がどこにあると聞きたい。ホネだろう親父は。
本当に一体どういう原理で見たり聞いたり出来ているんだ?
「……まあ言いたいことはあるけど、同意だな」
楽しみのために人間の命を弄ぶ下種を見ると、あのダーヴィッツを思い出す。
許さない。害虫は駆除だ!
「よ~し仕留めたやつがサーロインな! な! な! いいだろ!?」
「馬鹿お前この間食ったろうが、順番だ順番! それは守れよなぁ!」
「えええぇぇぇぇ~!? じゃあ次の順番はどいつだよオォォォ!?」
「「「………………?」」」
「何だぁおまえら?」
「「「…………忘れた」」」
「仕留めたやつがサーロインだぁぁぁぁ!」
「「「ヒャッハー! サーロインだああぁぁ!」」」
「ああもう死んでしまえ」
もう堪忍袋の緒が切れた俺は、魔石鋼の剣を奴等に向けた。
そして魔術炎弾を発射する。
それが、一番近い戦車の御者役のオーガに直撃した。
「ああああああ~~~! あじいいぃぃぃ!?」
「だ、大丈夫かぁ!? 今消してやるからなぁ!?」
隣にいた奴は、生意気にも魔術が使えるらしい。
手の中に水色に輝く弾を生み出し、炎上した奴に放つ。
ピキィン! と軋んだような音を立て、氷の彫像が出来上がった。
「あああ~! 凍っちまったぁぁぁ~! おい大丈夫か――ぁだあああぁあぁぁ!?」
馬鹿力で揺さぶるから、肩がもげたのだ。
「もう付き合ってられない」
もう一発魔術炎弾を放つ。
今度はさっきの魔術を使っていた奴に当たった。
「あじいいいいぃぃぃ!? けけけけ消さねえとおおぉぉ――!」
「王権――徴発!」
ドシュン! スキルの輝きが俺の手の中に納まる。
奴から奪ったのは、凍結魔術LV10だった。
LV10超えのスキルとは、あいつはオーガの中では有能な魔術師かもしれない。
馬鹿なのは間違いないが――
「あああああ!? 魔術が出ねええええぇぇぇ!?」
そのまま全身を燃え上がらせ、戦車から脱落した。
やれやれ、俺は自爆は哀れだから止めてやったんだが。
こんな結果になるとはな。残念だな。
これで二体倒した。しかし残りは七体もいるか――
倒せないわけはないが、少々面倒である。
時間がかかって馬車を傷つけられるのも避けたい。
親父は御者だから手が離せない……
「……」
――というわけで、俺は隣のレミアに『王の眼』を向けてみる。
名前 :レミア・レインドル
年齢 :17
種族 :人間
レベル:3
HP :31/31
MP :20/20
腕力 :9 (3)
体力 :12 (4)
敏捷 :12 (4)
精神 :9 (3)
魔力 :15 (5)
※()内は素質値。レベルアップ毎の上昇値。
所持スキル上限数 :4
スキル1 :鍛冶職人(下級職人)(※固有スキル)
なるほど。平均的だが、魔力だけ少し高い。
どちらかと言うと、魔術が得意という感じだ。
そしてスキル枠には3つ空きがある。
常人は1~2個だから、レミアは才能があると言えるだろう。
ともあれスキルに空きがあるなら、手伝ってもらえそうだ。
しかしレミアは鍛冶屋だったのか。
魔石の加工とかを出来るのなら、お願いしたいところだ。
「レミア、鍛冶屋なんだな」
「ええええっ!? ボクそれ言ってたっけ!?」
「いや、悪いけどスキルを見させてもらった」
「し、神託も魔法紙もないのに……!?」
「ああ、俺のスキルでさ。見れるんだ」
「へえぇ――凄い、そんなのがあるんだ……!」
「今から俺のスキルで魔術スキルを渡す。あいつらを倒すのを手伝ってくれ」
「ええっ!? そんな夢みたいな事できるわけが――」
「王権――下賜!」
シュンッ! とレミアの体にスキルの光が吸い込まれる。
奪いたての凍結魔術LV10をレミアに下賜したのだ。
「あれ――? な、なんか変だよ? 力が……ま、魔術……? 使えるかも!?」
「よしレミア、俺は左側からやる! そっちは右から頼む!」
俺は魔石鋼の剣の魔術炎弾を再び放つ。
そして隣のレミアは、魔術を――撃たない!?
「どうしたんだ、レミア?」
「撃てそうな気はするんだけど、どうやったらいいか分からないの!」
「それは呪文なり唱えてさ――」
「知らないよぉ……! ねえルネス、教えて!」
「……? あれ――?」
そう言えば俺も知らなかった!
武器に下賜したものを使っているだけだったのだ。
「……ごめん、俺も分からない!」
「馬鹿か……! お前まであいつらの真似してんじゃねえよ!」
御者台の親父から、呆れ声が飛んできた。
「いいかレミア! 両手を前に突き出して、俺の言う通りに呪文を唱えてみな!」
「う、うん!」
「狂える天の冷たい息吹よ。凍てつく蒼の輝きとなれ」
「うん……! 狂える天の冷たい息吹よ――凍てつく蒼の輝きとなれ――!」
今度こそ、レミアの手の中に水色に輝く弾が生まれた。
先ほど向こうが使っていたものと同じだ。
それが敵に向け飛んで行き、今度こそ一体のオーガを氷漬けにした。
そしてそれを他の奴が揺さぶって、肩がもげたのは言うまでもない。
あいつらに学習能力というものはないのだ。
「や、やった――! ぼ、僕にオーガが倒せるなんて……!」
どちらかと言うと、凍り付いたオーガを周りの奴が揺さぶって破壊するのが致命傷になっているわけだが――それはまあいいだろう。
レミアはまじまじと自分の手を見ていた。信じられない、という表情だった。
手が小刻みに震え、目にはうっすらと涙も見える。
「ど、どうしたレミア!?」
「だ、だってルネス……! ボク等、散々あいつらに弄ばれて生きて来たんだよ? だから嬉しくて……少しはみんなの仇が討てたんだよね……?」
「レミア――」
俺は、レミアの肩を強く握った。
「そのスキルはもうレミアのものだ。まだまだ――もっとやってやろう!」
「うん、ルネス!」
「さあ全部片づけるぞ!」
「はい……!」
手分けした俺とレミアは、程なくくそったれな生き物どもを壊滅させていた。
やれやれ……あいつらの相手はもう当分ゴメンだ。
できれば、静かに街まで辿り着きたいものだ。
面白い(面白そう)と感じて頂けたら、ブクマ・評価等で応援頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。