第10話 ボディチェンジ
「策があるだと? どんなだ、早く言え!」
「ああ――!」
俺は親父に伝えようとするが、そこにヒッポちゃんが稲妻を打ち込む構えをする。
そうは、させない!
俺は地面に向けて剣先からの魔術炎弾を放つ。
地面で爆ぜた火の玉が、粉塵と煙を巻き上げ視界を覆う。
煙の中の影に向けて稲妻が飛んで来るが、飛び退く俺達を追尾する射角の変更はない。
さすがにそこまでは、見えていないようだ。
その中で俺達は近くに寄り、手早く策を打ち合わせる。
「いいか、親父! ここは俺が引き付ける。今から俺が親父を徴発するから――!」
俺の提案に、親父は頷いて同意する。
「ふむ――それで裏をかけるかもな。よしやって見ろ! 急いでな!」
「ああ行くぞ親父! 王権――徴発!」
抜き取ったスキルは――
スキル :王の魂
である。
スケルトンの体が魂を失い、カランと崩れ落ちた。
「王権――下賜!」
続いて即座に下賜を。
王権の実行自体は上手く行った。
あとは――こっちが注意を引く!
俺は煙に身を隠しながら、魔術炎弾をヤツの顔面目がけて打ち込んでいく。
それを鬱陶しがったか、ヒッポちゃんは雷を止めて翼から風を生む。
それが、俺の身を隠していた粉塵を吹き飛ばす。
そうやって俺の姿を明らかにした上で、再び殺傷力の高い稲妻が。
「ちっ!」
俺は右に飛び退く。それを追いかけ雷の射角が変わる。
このままでは直撃――だが、俺は左の大型剣を地面に突き刺し、スキルで強化された腕力で自分の体を高く跳ね上げた。
大きく距離を稼ぐ事が出来、完全回避に成功した。
こちらとて、ずっと同じ動きではない。今回はヤツの裏をかけた。
即座に地面に魔術炎弾を打ち込み煙幕を。
身を隠しつつ、手を離した大型剣を再び拾う。
キュグウウウゥゥゥ!
再び強風が、俺を保護する煙を吹き飛ばす。
また稲妻が――
というところで、ヒッポちゃんの背後から背に駆け上がる一体の魔物が!
それは、石造りの厩舎の中にいた走爬竜である。
そいつはヒッポちゃんが反応する前に、背後から首元に噛みついた!
キュウウゥゥゥ!?
驚いて首を振って走爬竜を振り落とそうとするが、走爬竜も必死に食いついて離れない。
「離すかよおおぉぉぉッ!」
走爬竜はそう叫びながら喰らいつき続ける。
そう――あの走爬竜には王の魂を下賜してある。
死角から不意打ちし、ヤツに隙を作るためだ。
「よしッ! いいぞ親父!」
この隙は逃さない!
俺は全速力でヒッポちゃんに突進し、その勢いを乗せた左の大型剣をヤツの前足に叩き込む。ぐしゃりと骨がひしゃげる手応えが伝わってくる。
キュガガガガガ!
バランスを崩すのを、翼を広げて立て直そうとするが――
俺は地を蹴ると、その開いた翼の根元を、右の魔石鋼の剣で縦一文字に斬り裂いていた。
切断された翼は地面に落ち、噴き出した血がそれを染め上げていく。
キュオオオオオ!
ヤツは死に物狂いで暴れ、ようやく走爬竜の親父が振り落とされた。
戦況を立て直そうと、再び雷を放つ姿勢を見せる。
まだ戦う意欲は失っていないようである。
だが――
「王権――徴発!」
激しく傷ついた今、俺の徴発は奴に効いた。
スキルが光の玉となり、俺の手の中に飛び込んでくる。
同時に至近距離で発射寸前だった雷は霧散する。
当然だ、今俺が雷光魔術LV13のスキルを奪ったのだから。
「徴発! 徴発!」
更に二連打。風魔術LV15と格闘術LV20も奪った。
奪えるスキルは全て奪った! 同時に俺のMPも限界だ。
だがレベルとステータスは上なものの、飛び道具が無くなりその上接近戦の動きがぎこちないヤツなど、ただの異常に巨大な鳥だった。
滅茶苦茶に動き回るだけの破れかぶれの攻撃がたまに俺を叩くが、決定的な打撃には到底至らない。
暫くの格闘の後、俺はヒッポちゃんを追い詰めていた。
「終わりだああぁぁぁっ!」
魔石鋼の剣が、ヒッポちゃんの首を叩き落した!
キュオオオオオォォォン!
断末魔と共に、大ヒッポグリフの体は崩れ落ちていく。
それを見て俺は、体の力を抜いて座り込んだ。
「……ああつかれた――正直もうボロボロだ……」
魔術による裂傷に、近接で少し打撃を貰った打撲に……
体中が痛いんだが。
「お疲れさん! なかなか冴えてたじゃねえかルネス! よくやったぜ!」
走爬竜親父が俺を労ってくれた。
「はぁ。どうせなら骨とか蜥蜴じゃなくて、可愛い女の子にホメてもらいたいな」
「フッ。なら女の体を持って来いよ、何なら抱かせてやるぜぇ? けっけっけ」
「いるか! 気色の悪い事を言うなよな!」
「ま、軽口が叩けるんならまだ大丈夫だな。他に人間がいるか探すんだろ?」
「ああ、そうだな――ついでに食料とか役に立ちそうな物も持って行こう、ここにはいろいろありそうだ」
いくつかの厩舎と倉庫が集まっている場所だ。
集落と言うには小さいから、オーガの駐屯地か何かの施設か?
「そうするか。おっとその前にこのデカブツの魔石も回収だな。おーこいつは中々のもんだな」
ヒッポちゃんの亡骸から魔石を咥え出し、親父は満足そうにしていた。
確かに大きくて綺麗な魔石だった。
「このくらいになりゃ、加工すりゃスキルを宿せる護符にできるかもな」
「へぇ……それはいいな」
俺達は人の姿を探しつつ、施設の中を物色した。
走爬竜の厩舎には、幌馬車があったのでこれを持って行く事にする。
これなら、多くの荷物を持ち運ぶこともできる。
そして、食料も少し貯蔵されていたのでそれを頂くことにする。
ただし、ハムや干し肉などの肉類は、ひょっとしたら人肉かも知れないので除外。
木の実がぎっしり詰まった麻袋があったので、それを頂いておいた。
肉はヒッポちゃんの肉を捌いて持って行くことにする。
水もあったのでこれも頂く。
あとは走爬竜の飼葉も積んでおく。
それから俺は大型剣の鞘を拾い、持って行くことにした。
腰に下げるには大きいので、ベルトで背負う感じにする。
更に予備の武器として、大型剣に槍に大斧を一つずつ。馬車の荷台に積み込んだ。
防具類はサイズが大き過ぎるため諦めた。積み荷が重くなりすぎてもいけない。
結構、充実した物資だった。
これなら旅らしい旅が出来る。先は長そうだからな。
ついでに言うと、親父のホネのボディも集めて荷台に積んでおいた。
必要に応じて体を乗り換える方向で運用しようと思う。
結構レベルも上がっているし、スキルもあるから捨てるには惜しい。
そして最後の建物に踏み込むと――
そこには大きな檻があり、その中に人間が一人捕らえられていたのだった。
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