西ウィング 9階 心臓血管外科
「おい。三谷家先生。昨日の状況説明してくれよ」
相変わらず元気なのか死にそうなのか分からない顔でやってきたのは科長の工藤先生だ。
「状況って・・・。いつもと大して変わらないですよ。夜中に救急搬送があって、ICU満床だから加藤先生のベッドコントロールでうちの病棟にまだ管理段階の患者が押し込まれただけです」
「だけですって・・・・。あー、また頭痛が・・・。」
「文句なら加藤先生に言ってくださいよー。最初はうちも断ったんですよ。でも加藤先生、いろんな科から嫌がられちゃって、昨日は最終的に産科と小児科まで交渉の電話したらしいですよ。でもそんな急性期の患者は受けられないと小児科に断られ、男性患者は受けられないと産科に断られ・・・って当然ですけど。」
加藤先生ってのは、中央ウィング1階 救命センターの敏腕ドクターで工藤先生と新生児科の佐竹先生の同期だ。命を救う能力には過ぎるくらい長けてるんだけど、とにかく組織の人間には向いてなさすぎる人で・・・。救命とICUの尻拭いはだいたいうちの病棟で引き受ける感じになってて、それは本当に勘弁してほしくて・・・。
「・・・・まじか。何考えてんだあいつ・・・。いやでもさすがに中央2・3階は・・」
「事実ですよ。昨日、小児科看護師から泣きの電話が来て、それで仕方なく受け入れたんですよ。産科で男性はどう考えても無理だから、小児科にかなり押したらしくて・・・・・。まあ、しばらくすればどうせうちが受ける患者だったんだろうし、もういいじゃないですか」
「・・・そうやって三谷家ちゃんが甘やかすから・・・」
「じゃ、同期の工藤先生が釘、刺しといてくださいね」
「・・・・・・・・・・・」
工藤先生は、うんざりって顔してうなだれたけど、あなたしか出来る人はいませんから。僕はとりあえず朝一からオペなんで行ってきます。