中央ウィング 2階 産婦人科病棟
どうにもやる気がない院長室を出て、自分の巣に戻ってみたら、先客がいた。
「・・・・相変わらずコーヒー臭いな」
「臭いは言い過ぎ、来宮。僕のほんとの大好物はアイスクリームだって知ってるだろ」
「・・・誰か早く院長に教えてやれよ。あの人、お前がコーヒー好きだって吹き込まれて機嫌を取ろうとして高いコーヒー豆買ってるらしいぞ」
「僕は吹き込んだ覚えないけど」
来宮は、本館9階の医師で僕の高校時代からの同期だ。
「それで。本題はどうなったんだよ」
「ああ。来宮の予想通り。全然ダメだった」
「だから言ったろ。期待したら駄目だって。」
僕らがうだうだ言っていると、後ろから忍び寄る影が・・・・。
「おはよう。お2人さん。こんなところでおしゃべりして暇なのかな?じゃあ、このカルテ・・・」
「あああ。おはようございます。朱美さん!全然暇じゃないです!むしろ目が回ります」
「それは言い過ぎだ、神坂」
「来宮先生も、患者さんたちを置いてけぼりでいいのかな?」
「全然よくないですが、朱美さんに言われる筋合いもありません」
「・・・相変わらず可愛くない奴・・・。10年前のかわいらしさはどこに置いてきたのかしら・・・・・」
朱美さんは、産婦人科病棟のベテラン助産師さんだ。年齢は不詳だが、僕たち2人の研修医時代から知っているということだけお伝えしておく。
「おっはようございまーす!あれー?朝から3人で集まって何してるんですかー?密会ですかー?」
「おはよう。黒木。朝からぶっ飛ばしてやろうか」
「・・・来宮先生が言うとマジっぽくて怖いんですよねー。」
「昨日の1階からの電話のせいでかなりイライラしてるから、すぐぶっ飛ばせるけど」
朝から妙なテンションでやってきたのは産婦人科病棟の若手女医、黒木だ。黒木と来宮はなぜか天敵でいつもこんな風にいがみあってる。
来宮だけはフロアが違うけど、とりあえずこのメンバーが僕の仕事場の定番だ。
「さ、俺はそろそろ戻るかな。あー、大変だ」
「あれ?患者さんそんなに多いの?」
「やっぱり時期的に喘息が増えるからな。仕方ないさ。」
来宮はそう言い残して3階に戻っていった。