中央ウィング4階 院長室
ここだけは、違う時間が流れている気がする。
ここから一歩外に出れば、せわしない時間が流れているというのに、ここだけはやたらとのんびりだ。
「コーヒー、冷めますよ」
僕にしきりにコーヒーを進めるのは、この部屋の主だ。
「コーヒー飲まない主義なんで」
「・・・・まったく、神坂先生までなんだかぶっきら棒になっちゃって。そういうのは来宮先生一人で十分ですよ」
ぶっきら棒にさせてんのはどこのだれか分かってるんですか、と言いたいのをぐっと押さえて黙る。あ、来宮ってのは専ら愛想が無いって言われる僕の同期の呼吸器内科医ね。
「・・・で、人員増員は考えてくれました?」
とりあえず、のんびりに巻き込まれる前にこの部屋を出るため、本題を切りだす。
僕が所属するこども医療センター産婦人科は慢性的な人手不足に悩まされている。常勤医2人と非常勤医1人でなんとか回している状態だ。NICUもある周産期医療センターとしてはなんとも、いや、かなりまずい。そこで院長に増員を頼んでいるんだけど・・。
「いやあ、それがねえ。なかなか難しくてねえ。決して探してないわけじゃないのよ。でも、産科医を捕まえるのはそんな簡単じゃなくてねえ」
そんな事、僕が一番よく分かってます、と言いたいのを・・・さっきからぐっと押さえてばかりだな僕・・・・。
「・・・・じゃあ今日話すべきことはありませんね。戻りますね」
「・・・・・コーヒー・・・」
「・・・・・・いただきます」
僕は根負けして、すでに冷たくなったコーヒーを胃に流し込んだ。