回想(及び 登場人物紹介)
登場人物
・神坂葵→中央ウィング2階、産婦人科医。医師8年目。
・坂原涼→坂原探偵事務所。医師8年目。
・来宮柊(-しゅう)→東ウィング9階、呼吸器内科医。医師8年目。
・池端直也→消息不明の医師、医師8年目。
・松永朱美→中央ウィング2階、助産師。20年目の大ベテラン。
・黒木静佳(-せいか)→中央ウィング2階、産婦人科医。医師5年目。
・工藤護→西ウィング9階、心臓血管外科医。医師20年目。科長。
・大原二郎→西ウィング9階、心臓血管外科医。医師18年目。
・三谷家洋→西ウィング9階、心臓血管外科医。医師13年目。
・増野健太→西ウィング9階、看護師。15年目。
・真山啓介→西ウィング9階、看護師。15年目。
・斉藤綾香→東ウィング9階、看護師。8年目。
・加藤亮治→中央ウィング1階、救命医。医師20年目。救命救急センター長。
・高瀬樹→西ウィング7階、麻酔科医。医師18年目。科長。
・板橋浩司→西ウィング7階、麻酔科医。医師10年目。
・三山一郎→水鳥医療センター院長。
・磯山菜穂→水鳥警察署刑事部捜査一課特殊犯係、警部補。
・伊沢紗千→坂原探偵事務所、アルバイト。大学2年生。来宮の患者。
張り詰めたガラスを俺の一言で壊す。
「子宮を全摘することになるかもしれません。」
すると、目の前の母は言った。
「子ども、もう一人欲しいんです。子宮は絶対に取らないでください」
彼女はそう言い残して目を閉じた。
次に彼女が目を覚ました時、彼女は母では無かった。
彼女が言わずもがな望んだ第一子、そして言葉で臨んだ子宮も、彼女の手に無かった。
胎盤剥離。大量出血でもう、子宮を残すことも、胎児を助けることすらできなかった。
彼女は入院中に立ち直ることは無かった。ついに退院まで俺と目も合わせることが無かった。
夫から訴訟を起こすと言われた。俺は仕方ないと思っていた。
しかし、医療行為自体には問題が無かったため話し合いで収まった。
責任を感じた。神坂先生や佐竹先生にはこれを経験として強くなれと励まされたがそう簡単に割り切れなかった。何より、出産に向き合うのが怖くなった。
そして、俺は産科医を辞めた。