009.扉の中
多数決の結果、扉は開けずにしばらく待つことになり、1時間後に採決し直すことも決まった。その後の1時間は全員がすることもなくただ待っていた。することの無い1時間というのは不安を掻き立てるには十分な時間だったのか、1時間後の再採決では扉を開ける派が多数となった。『転移』からは1時間半後のことだ。
「よし、まずは大扉を開けてみようぜ!」
扉を開けることに決まり俄然やる気を出したタクミの先導により、大扉の周りにクラス全員が集まった。大扉は中央で二つに分かれた2枚扉で、胸の高さくらいにノブ代わりと思われる横棒がついている。1枚の扉の長さは2m程あるので1枚あたり男子5人の総勢10人で押してみたがビクともしなかった。引いても駄目、横にも動かなかった。
「くそっ、次は小さい扉だ!」
タクミは右側の壁の3枚の扉のうち、一番近い扉に向かった。
「僕はあっちを試すよ。」
僕はそう告げると、後方の扉へ向かった。
「開いたぞ!」
「こっちも開いたよ!」
タクミと僕が試した扉はどちらも鍵などは掛かっておらず、簡単に開けることができた。
全ての扉を試した結果、前方の大扉と右側中央の扉は開かなかったが、他は全て開けることができた。開いた扉の中はそれぞれ小部屋になっているが、中身はそれぞれ違っていた。
タクミが最初に開けた右側前方の扉は食料庫だった。扉の中には更に二つの扉があり、一つを開けると冷凍室になっていた。人が立って入ることができる巨大な冷凍室だ。そしてその中には冷凍された見慣れぬ魚や野菜、肉の塊などが保管されていた。ビニールで包装された冷凍食品などの見慣れたアイテムは見当たらなかった。もう一つの扉の中は常温の倉庫のようだった。棚に並べられた干し肉やドライフルーツ、樽に入れたら小麦と推測される白い粉、同じく樽に入れられた塩や砂糖に粉唐辛子などが保管されていた。入れられている物は全て乾燥しており、この部屋は乾燥室なのだろうと推測された。
右側後方の扉の中には、寝袋や毛布などの寝具と大量の衣服があった。そのため、衣裳部屋と呼ぶことになった。
後方右側の扉の中には更に8つの小部屋があった。8つの小部屋のうち、7つは同じ小部屋で、中央には高さ50cm、直径30cm程の円筒状の物体が据え付けられていた。円筒の上部中央は穴が開けられており大きな灰皿の様に見えた。
後方中央の扉の中は炊事場のようだった。水道の様なものがあり、黒いボタンの様な物を叩くと水が出た。タクミがそれを飲んでみたが問題なく飲めた。その他にも食器や調理道具などが置かれていた。
後方左側の扉の中は4つの個室があり、シャワー室のようだった。個室内にある黒いボタンを叩くと壁から突き出ていた突起からお湯がシャワーの様に出てきた。試したマサアキ(鈴木正昭、すずきまさあき)が突然降り出したお湯で全身ずぶ濡れになり、衣裳部屋にあった服に着替えることになった。
大扉
■■■■□□■■■■
■□□□□□□□□■
■□□□□□□□□→食料庫
■□□□□□□□□■
■□□□□□□□□→開かない
■□□□□□□□□■
■□□□□□□□□→衣裳部屋
■□□□□□□□□■
■■↓■↓■■↓■■
シャワー室、炊事場、灰皿
姫「爺、扉が開いてしまいましたよ!扉の向こうはどうなっているのですか!?」
爺「姫様、彼らの監視・観察は長期化することを予想していましたな。ですから、扉の中には長期間の生活に支障のないような設備と食料が収められておりますな。」
姫「そうですか。問題ないのですね。」