076.実戦訓練
勇者召喚の真相についてみんなと話してから10日間は早朝にルンケイオスと神聖語の研究をして、昼は班長との訓練、夜はみんなと話し合いをしながら過ごした。そして、いよいよダンジョンでの実践訓練をすることになった。盾役と攻撃役はそれぞれ実践訓練を終えており、今日は班長の僕を含めた全員をクラスメートで固めた最終訓練となる。
ダイスケ、ナガヤマ、ウキの3人が盾役を勤め、タクミ、イマイくん、タカトが攻撃役に入った。班長は僕だ。後には騎士も一緒についてくれているので心配ない。
みんな興奮している。始めての自分たちだけでの実践なのだから興奮するのは仕方ないことだ。騎士に案内されながらダンジョンを進み、どこか浮ついた行軍だったが、魔物との遭遇で急激に緊張感が張り詰めた。
『盾役構え!魔物はブルードッグ3体。攻撃役は攻撃準備!』
僕の目からすれば何とも珍妙な、鮮やかな青色をした犬型の魔物であるブルードッグが通路の奥から走ってくる。僕の指示で各々が動く。盾役のダイスケたちが素早く盾を連結させて防御姿勢をとった。
『盾役!来るぞ!受け止めろ!』
ブルードッグが盾をもろともせずに飛び掛ってきたが、しっかり踏ん張ったダイスケたちによって跳ね返された。
『攻撃役、撃て!』
攻撃役のタクミたちは盾の上や連結部から手の平だけを出して魔法を放つ。3人中1人の火の弾が命中し、攻撃を受けたブルードッグはそのまま倒れた。
『1体倒れて2体が残っている。盾役は防御姿勢を継続。攻撃役、攻撃準備!』
ブルードッグは火の弾を見ても怯むことなく再び飛び掛ってきたが、盾に防がれる。
『撃て!』
今度は火の弾が残り2体に命中し、ブルードッグが3体とも床に倒れた。
『掃討完了。これより確認に入る。』
実践訓練は無事に終了した。他の人達は騎士に混じって実践訓練を積んでいるが、僕だけは本当に初の実践訓練だった。いきなりの実践の指揮で緊張したが問題なくこなせたようだ。魔法攻撃も予想よりも高威力で、ブルードッグを一撃でしとめていた。ブルードッグの死体を確認すると、魔法が命中した箇所は肉に穴が開き、焼け焦げていた。
『アロー殿。見事な指揮だった。』
後ろで見守ってくれていた騎士の班長が話し掛けてきた。
『いえ、皆が優秀だっただけです。僕がいなくても結果は同じだったと思います。』
『確かにその通りだ。班員がしっかりしていれば班長は誰であろうと問題ない。だが、班長が的確な指示をすることで班員もより自信を持って行動できるものだ。その意味でよい指揮だった。』
『ありがとうございます。』
『それから、魔法の威力は素晴らしいな。あれなら十分に実践で通用するであろう。』
『そうですか。安心しました。良い魔法を授けてくださった女神様に感謝ですね。』
火の攻撃魔法については姫様が神託を授かったということにした。ジーヤコブズ氏の間者経由で姫に伝えて、姫が「勇者様が使うための魔法について神託が降りました。急ぎ勇者様のところへ行かせてください。」と騒いだところ、王女も止めきれなくなって姫を出したらしい。そして完全に茶番ではあるが、姫が僕たちのところにやってきて魔法を教えてくれるふりをしたのだ。
これにて火の攻撃魔法が公開され、実践導入された。ちなみに騎士たちは魔力不足で使えない。勇者は魔力量が多いという神託は本当だったことが証明されたのだ。