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異世界転移したけど女神も姫も出てこない  作者: かが みみる
本編
70/80

070.魔法の練習

 翌日、シズカに神託が下った。昨日お願いしていた正しい神託を授かるための儀式の方法についてだ。

 結局のところ特に決まった儀式は必要ないようだった。女神は神託の巫女のことを一日一度は見ており、その時に願いを唱えていればそれで願いは伝わるのだそうだ。それと、願いを叶えるには女神でも準備に時間が掛かるらしい。願いが伝わり女神が準備中の間も、神託の巫女が苦行のような儀式を続けていることがあり止めて欲しそうだったという話だ。女神の必死の姿を見ると可哀想だからと準備を急がないといかなくなるらしい。

ここまでが神託から得られた情報だ。ここからは考察だが、ジーヤコブズ氏から聞いた3日3晩祈り続ける苦行のような儀式は、ある程度利に適っていると言えるだろう。女神が何時見てくれるのかは分からないが、3日3晩祈り続ければ女神に確実に見てもらえるだろう。そして、そこまで過酷なことをしていれば準備を急いでもくれるだろう。3日3晩も祈り続ければ、終わった後は直ぐに眠りにつくだろうし、眠りについたときに急いでくれた女神の準備が終わっていれば、直ぐに神託を貰えることになる。緊急時に確実に神託を得るためには良い方法かもしれない。

だがそこまでせずとも丸一日祈るだけでも願いは伝わる可能性が高い。シズカに無理をさせる必要は無いので今後はそれでいくことにした。


 今日はルンケイオスも来ていない。依頼した調査を進めてくれているだろう。

ジーヤコブズはイトウちゃんが交渉中だ。口を出さずにイトウちゃんに任せるつもりだ。

アユミはモーちゃんと一緒にダンジョン探索の計画を練っている。タクミとマッサンは騎士から戦い方の指導を受けている。アユミの指示によりジーヤコブズ経由で朝一番に指導を依頼したのだ。よく考えてみると今日は自分のやるべき担当は無い。だから久しぶりに、


 「暇だーーーっ。痛っ。」


 シローに後から頭を叩かれた。


 「暇だーーーっ。じゃない。アローも魔法の練習をしろ。」


 「あれ?でも指導係のタクミが違うことを始めてしまっただろう?」


 「本当に、指導係を引き受けて直ぐに違うことを始めてしまうなんて、あいつに責任感というものは無いのか。というわけで今日はまたシズカが指導してくれることになっているよ。アローも早く行ってくれ。」


 「サボれると思ったのに。残念だ。」


 シローに言われて仕方なくシャワー室に入ると既に魔法の練習が始まっていた。ダイスケやサヤカも練習のメンバーにいる。ダイスケには昨日までずっと翻訳の魔石を作ってもらっていた。実はナガヤマにも魔石作りをして貰っていて、昨日まででまとまった数が揃ったので二人は今日から魔法の練習に参加することになった。サヤカさんの方は今まで自分が連れまわしているような状態だったので、魔法の練習ができていなかった。暇ができるタイミングが同時になったのは必然だろう。


 シズカが魔法の見本を見せてくれる。右手の平を前に突き出したシズカが呪文を唱えると、掌の前に火の玉が現れて前方の壁に向かって飛んでいった。火の玉は壁にぶつかると一瞬バッと燃え広がり、直ぐに消えた。

 呪文を唱えると魔法が発動する。これは何とも不思議な現象だ。呪文は物理的には単なる音だ。音とは即ち空気の振動であり、空気の振動と火の玉が飛んでいくという現象に何の因果関係も認められない。だが実際にその現象は起こっており、そこには物理法則を超越した何らかの法則が存在していることを意味している。恐らくそれは女神が創った法則であり、女神は物理法則を超越した存在だと考えられる。

 今はそんなことはどうでもよくて、呪文を丸暗記する方がはるかに重要だった。暗記は苦手ではない。むしろ世間一般の標準よりも得意な方だと思う。だが、暗記する対象に法則を見出して効率よく覚える方が好きだし得意だ。意味不明な呪文を丸暗記なんて苦痛でしかない。他の魔法の呪文も並べて共通点などを見出して分析&研究し、効率よく覚えることはできないだろうか。


 「アローくんはもう覚えた?」


 現実逃避していたところにサヤカが声を掛けてきた。


 「まだだよ。そういえばこの世界に元からある魔法も調べさせていたよね。誰か練習したりしているのかな?」


 「魔法の種類だけ教わっただけだから呪文が分からないし、誰も練習してないよ。」


 「そうか。今度呪文を教わって研究してみたいな。」


 「ふふっ。魔石の時みたいに夢中になり過ぎちゃ駄目だよ。」


 「気をつけます。」


 他愛も無い会話だったが気分が変わり、呪文の暗記に気合が入った。時間にすれば10秒にも満たない呪文なのだから発音が難しいとはいえやる気さえあれば覚えることができる。

 シズカに教わりながら呪文とポーズを覚えたら魔法を実際に使ってみる。ポーズをとって呪文を唱えると、体の中から何かが抜ける感覚に襲われ、その後、魔法が発動した。魔法は体内の魔力を消費して発動するらしいので、体から抜けたのは魔力なのだろう。


 「流石にアロー君は早いね。」


 魔法が発動したところを見ていたシズカが話しかけてきた。


 「そうかな?ただ呪文を覚えるだけだから、こんなものでしょう?」


 「練習初めて一時間くらいだよね。多分今までで最速だよ。」


 「でもシズカさんは練習無しで一発成功だったよね。」


 「そうだけど、私は一晩中夢の中で見本を見せられているんだよ。」


 「そうか。神託の巫女は大変だね。」


 「そう。儀式もたいへんだし、責任重大だし、大変だよ。みんなに支えて貰わないと倒れちゃう。」


 シズカは冗談めかしてそういうと、他の人の指導に戻っていった。

 倒れちゃうといえば、魔法は使い過ぎると大した運動もしていないのに疲労を感じてくるらしい。そして魔法が発動しなくなり、その頃にはその場に倒れこみたいほどの疲労を感じるそうだ。だが魔力を使い切ったら気絶、とかはなく、倒れるほどの疲労を感じるだけだそうだ。一度自分の限界を知っておいた方がよいかもしれない。連続で何発打てるか試しておこう。

 魔法を5発連続で発動したところでシズカが止めに入ってきた。


 「駄目だよアロー君。魔法は使い過ぎると凄く疲れるんだから。」


 「うん。分かっている。でも一度限界を知っておいた方がいいと思うからね。」


 「あれはかなり辛いから止めておいた方がいいよ。絶対。」


 「そんなに言うなら分かったよ。今日は止めておく。でも一度は試しておいた方がいいと思うから、計画を立ててサポート体制を整えてから全員が順番に体験することにしよう。」


 今回はシズカに止められてできなかったが、必要なことだと思う。とりあえず5連発くらいは問題ないことは分かったし、今後の課題としておこう。




 シズカに止められて魔法の練習もできなくなり、することが無くなってしまった。仕方なく他のチームの様子でも見てみようとうろついていると、アユミにつかまった。


 「安全面を考慮したダンジョン探索までの手順を考えてみたのだけれど、アロー君の意見を聞かせてくれるかしら?」


 「分かった。」


 アユミは考えた手順を説明してくれた。

基本的には騎士たちが採用している盾役と攻撃役を分けた運用を踏襲し、攻撃方法に魔法を組み入れる計画だ。

 まずは騎士からダンジョン探索についての手解きを受ける。これは既にタクミ達がやっているところだ。計画では最低3日。進捗次第では延長するということだそうだ。

それと同時にダンジョン探索に必要な装備を整える。これは武器庫内の物品について使用許可を得たそうだ。そもそもこの部屋はダンジョン内の休憩所であり、武器庫はダンジョン探索に必要な物品の保管庫だったのだそうだ。まさか壁に穴を空けて中に入られるとは思っていなかったので、扉に鍵だけかけて中身はそのままにしていたということだった。そのためダンジョン探索に必要な物品は揃っている。

 装備を整え、訓練を終えたら次は見学だ。騎士たちの実践行動について行き、魔物と戦うところを見せて貰う。無理はせずに一戦闘で引き返してその様子を全員に報告してもらうそうだ。これは計画では1日。但し報告内容次第では延長し、見学の回数を増やして貰うことになる。

 見学の次は実践だ。まずは二班に分かれて行動する。一班は騎士に盾役を担ってもらい、魔法攻撃を試す班。もう一班は騎士に混じり盾役をやらせて貰う班だ。計画では3日程度。

まだ魔法をこちらの世界の人達に見せたことはなく、今使っている火の攻撃魔法については、ジーヤコブズ氏との約束で姫が神託を貰ったことにするということにしてある。この頃までには姫の問題も片付いて貰わないと困る。

 盾役も攻撃役も問題なく役割をこなせるようなら、二班が合流して騎士に見てもらいながらの実践だ。ここでも始めは無理せず一戦闘で引き返してその様子を全員に報告してもらうそうだ。騎士に見て貰いながら実践を積み、自信がついてきたら計画は終了。そこからはダンジョン探索を自分たちの仕事としてこなしていき、実績を積むことになる。

 大筋は決めてあるが、途中途中で結果の報告を貰いながら計画を見直していくということだった。


 「うん。いい計画だと思うよ。」


 「でも、まだ不安なのよね。」


 「不安か。まあ、分からないことも多いし、完璧な計画なんて無理だからどこかで決断するしかないのだけど、具体的にどこが不安かあげられるかな?」


 「うーん。先ずは盾役かしら。騎士たちは鍛えているだろうからできると思うのだけど、私たちにそれができるのかが不安だわ。それと魔法が思った通りに魔物に効果があるかも心配だし、タクミくんたちが暴走しないかも心配よ。」


 「うん。いいね。かなり具体的だ。一つ一つ不安を潰していこう。まず盾役はできそうなメンバーを厳選しよう。僕らの中でも体格の良い、ダイスケ、ナガヤマ、ウキくん、モーちゃんとか、鍛えているマッサンとかならできそうな気がしないかな?」


 「そうね。それならできそうな気がするわ。」


 「次に魔法の効果だけど、これはやってみないと何とも言えないよね。だからアユミさんも盾役を騎士にして攻撃を試す計画にしているのでしょう?ここはもうやってみるしかない。当然、魔法が効かなかったときのために攻撃役の騎士にも付いて行ってもらって、安全を確保しつつ試せばいいよね。それから、魔法以外の攻撃の訓練も受けておこう。」


 「そうね。魔法は試してみるしかないと思う。魔法以外の攻撃の訓練もバックアップとして必要ね。」


 「最後に、タクミの暴走だけど、これは指揮者を決めておけばいいと思うよ。騎士たちには盾役と攻撃役の他に、隊長のような人がいるのではないかな。僕たちもそれをしよう。計画続行、撤退、メンバー交替などの判断をする責任者としてのリーダーを決めておく。盾役にも攻撃役にも入らずにそれ専任がいいかもね。」


 「リーダーね。よい考えだと思うけれど、言うことを聞くかが心配だわ。」


 「そこは人選次第だ。例えばタクミが引き受けてくれると統率できていいと思う。」


 「タクミくんは攻撃役をやりたがる気がするわ。」


 「まあそうだね。そうすると・・・。」


 「アロー君ね。うん。それなら大丈夫そう。よろしくね。」


 「えっ?いや、僕はちょっと。」


 「ありがとう、お陰で大丈夫そうな気がしてきたわ。今の案も合わせてまとめてタクミ君たちにも説明するわね。」


 「ああ、もう決定なのか。うん、まあ、よろしく。」


 何だか無理矢理リーダーにされてしまったようだ。言い出しっぺが損をするというやつだろうか。仕方ない。本当に指名されたら引き受けよう。



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