007.扉を開けるか開けないか
しばらくするとタクミとテルが再び騒ぎ出した。
「どうなっているんだ、テル!誰も来ないじゃないか!」
「ひぃーっ、すみません。ごめんなさい。」
「お前のせいで時間を無駄にしたじゃないか!くそっ。もういい。あの扉を開けてみようぜ!」
タクミはこの部屋に幾つかある扉の中で一番大きな扉を指差した。この部屋はかなり広く、面積にして教室の4倍程度はある。そして転移直後の位置関係から教室の前側にあたる壁の中央に、幅4m、高さ3mの中開きの大扉がある。タクミが指差したのはこの扉だ。また、教室で言えば廊下側にあたる右側には等間隔に3つの扉が並んでいるが、こちらは普通の大きさの1枚扉だ。さらに後ろ側には右側と同じ様に扉が3枚並んでいる。左側には扉も窓もなく、中央付近に柱と思われる壁の出っ張りがあるだけだ。この部屋には合計で7枚の扉があった。
タクミは普段から親しくしている仲間に声を掛けて大扉へ向おうとした。だが、モーちゃんがタクミを呼び止めた。
「タクミ、勝手な行動は止めてくれ。扉の向こうには何があるか分からない。扉を開けるというのはリスクを伴う行為だ。だからちゃんとみんなで話し合ってからにしよう。」
タクミはモーちゃんの制止を聞き、鼻で笑った。
「馬鹿かお前。この状況で扉を開けないなんて選択あるかよ。」
「扉の向こうがどうなっているか分からないのだから、下手に開けてみんなを危険な目に合わせるわけにはいかない。俺はクラス委員として勝手な行動は認められない。」
タクミとモーちゃんの言い合いをみんなが見守っていたが、二人の言い合いは平行線を辿った。そこにアユミ(清水歩美、しみずあゆみ)が口を挟んだ。
「私もまずみんなの意見を確認するべきだと思うわ。みんなもそう思うでしょう?」
アユミがそう言うと水を向けられた周囲の人間が頷いた。
アローはアユミに対しては典型的な優等生という印象を持っていた。アユミの今の発言もその印象通りであり、アユミにとっては扉を開けるか開けないかより、みんなの意見を聞くことの方が重要なのだろうと思った。アユミの言葉とみんなの同意はモーちゃんへの加勢となり、モーちゃんは語気を強めた。
「扉を開けるのはリスクを伴う行為だ。もし扉の向こうに毒ガスが溜まっていたら俺たちは全滅することになるかもしれない。他にも色々なリスクが考えられる。扉を開けるというのはここにいる全員に関係する行為だ。だから、多数決を採ろう。」
姫「なにやら揉めているわね。」
爺「そうですな。しかし、何を揉めておるのか分かりませぬ。この召喚は失敗だったのでは。」
姫「彼らの召喚は女神様からの御告げなのよ。きっと深い考えがあってのこと。」
爺「・・・そうだと良いですな・・・。」