067.現状確認
翌日も朝からルンケイオスと神聖語の研究に勤しんだ。その日の夕食後、シローから放置していた他の案件の現状について教えて貰った。
神託を授かるための儀式についてはジーヤコブズ氏から教えて貰い終えたそうだ。儀式は専用の白装束を着て3日3晩ほとんど睡眠も取らずに願いを唱え続けるという過酷な内容だった。食事やトイレなどについても細かな決まりがあるそうだ。だがシズカにはそんなことをしなくとも神託を授かった実績があるので、そんな儀式が本当に必要なのか疑問だ。
「直接女神様に聞いてみよう。シズカさんに指示してくれ。前回やったのと同じ、数時間祈り続けるだけの簡単な儀式でいいから、神託を授かるための儀式の方法を教えて欲しいと祈って貰おう。」
女神からの神託なんて反則級の強大な力を得る方法を曖昧なままにしておくなんて愚の骨頂だ。僕たちを作ったのが女神だというのであれば、僕たちに協力してくれるかもしれない。その協力を願う手段が現状では神託しかないのだから、神託を授かる方法は何より重要だろう。
次に魔法習得については最初のメンバーは全員無事に習得を終えて、メンバーの入れ替えを始めたところだそうだ。最初のメンバーに入っていて魔法習得を終えたタクミが新メンバーへの講師を買って出たそうで、シズカは魔法習得の指導から外れても問題ない。魔法習得はそのまま全員が覚えるまで続けることになる。シローからはアローも早く覚えろと言われたので時間がある時に練習に参加してみよう。
この世界に既にある魔法については、「コップ一杯の水を出す」とか「薪に火を付ける」といった生活に便利な魔法ばかりだった。効果に関して言えばルンケイオスに見せて貰った魔石魔法の方が高いが、何の道具も要らず呪文を唱えるだけで発動できる点で優れており、魔法はこの世界の人達の生活に溶け込んでいるそうだ。ジーヤコブズには姫が新たな魔法を貰ったという体で新魔法を発表して貰う予定だが、その魔法については今僕たちが練習している火弾を放つ攻撃魔法でもいいだろう。
姫に関してはシローが代行してジーヤコブズと情報交換してくれていた。特に進展はなく、姫は今も王妃の離宮内に体調不良を理由に拘束されているらしい。だが何時までも体調不良で誤魔化せるはずはなく、ジーヤコブズが何度も会わせて欲しいと嘆願しに行っているそうだ。姫の件に関して言えば王妃が何を考えているのか全く理解できないというのが正直な感想だ。
「姫は既に殺されていてそれを隠しているのではないかと思う。」
とはシローの談だ。そんなことはジーヤコブズには絶対言えないが。
その他に、神託の儀式を教えて貰い終えた後、この部屋を出てからの僕たちの生活についてジーヤコブズと交渉を開始している。その交渉はアユミが中心と成っている。これについては前に僕が出した条件が課題となっていた。僕が出した条件というのは、クラスメイト全員を一つの居住区にまとめることだ。前にやってきたオレガエルやそれに類する奴らが僕たちを数人単位に分断しようとしているらしい。それから、全員が入るほどの大きな居住区が簡単には見つからないことも問題のようだ。今はジーヤコブズの候補地探し待ちで、その間に住居以外の生活保障についてアユミが細かな要求を出して交渉中だそうだ。
「明日から僕もその交渉に加わろう。」
そう宣言するとシローも同意してくれた。まずはこの部屋から出ること。それを僕たちの当面の目標と設定した。