表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したけど女神も姫も出てこない  作者: かが みみる
本編
55/80

055.突入

 「翻訳の魔石」の完成を確認した後、クラス全員を集めて「翻訳の魔石」作成の経緯を説明した。シズカの夢に女神が現れたこと、女神から「翻訳の魔石」の作成を指示された事、その夢についてリーダー6人で相談して単なる夢の可能性があるため公表は「翻訳の魔石」が本当にできてからにすることにしたこと、などを説明した。隠していたことに対して文句が出るかと思ったが特に反応は無かった。というよりも、ほとんどの人が既に知っていたようだ。恐らくニヤニヤしているシローの仕業だ。まあ、シローなら反感が沸き難いように上手く説明しただろう。


 「・・・ということで完成したのがこの「翻訳の魔石」なのだけど、今使って見せるね。」


 アローは先ほどと同じように「翻訳の魔石」をみんなの前で使って見せた。「おはよう。」、「こんにちは。」、「ここは何処?」、などの幾つかの言葉を日本語で発し、それが「翻訳の魔石」の一つにより謎の言語に翻訳された。そしてその言語を真似して発した言葉は、もう一つの「翻訳の魔石」により日本語に再翻訳された。しかも魔石から発せられる声はアローの声質まで再現しているのだ。単なる石が翻訳して別の音を出すことにみんなが驚き、不思議がり、そして興奮していた。

 俺にもやらせろとタクミが言い出してからは次々とみんなの手に渡り、試されていった。使用者の声質に合わせて「翻訳の魔石」の声質も変わり、録音でもなければアローの腹話術でもないことがはっきりとした。そして「翻訳の魔石」はどうやってか使用者を特定する力があることが分かった。起動の衝撃を与えた人の声だけが翻訳されて、周りの人の声には反応しないのだ。


 みんなで一通り騒ぎ終えると話し合いに移った。まずは全員で事実確認だ。「翻訳の魔石」は本物で、自分たちの知る物理科学では説明がつかない機能を持っている。そしてそれをもたらしたシズカの夢も本物で、女神(と名乗る超常的な何か)が存在する。総合するとここは自分たちの知る世界ではない可能性が高く、異世界と考えた方が良いだろうということを確認しあった。

 ここが異世界と断じて喜んでいるのはテルだけだった。他のみんなは助けが来る可能性が無くなったことを嘆き、自力脱出できても異世界では生きていけないのではないかと不安になっていた。そこでアローは希望を語りだした。


 「女神が「翻訳の魔石」を作らせたということは、それを使うべき時が来るということだと思う。近い将来、僕たちは言葉は違えども会話ができる人と出会うということだ。異世界とは言っても人がいて会話ができるということだから、交渉次第では助けて貰えるかもしれない。きっと外には街があって社会があるはずだ。しかもここの設備を見る限り、それなりに文明が発達していると思う。これは絶望的な状況ではないと思うよ。」


 絶望的な状況ではないと本気で思っている、生命活動を継続するという意味ではだが。アローは既に帰還を諦めており、異世界でどうやって生き残るかに意識が移っている。だから「翻訳の魔石」が完成した現状はアローにとっては絶望的な状況ではない。だが多くの人は帰還することを望んでおり、帰還することに関しては今は絶望的な状況だ。その意識の違いを認識した上であえて、絶望的ではないと言ったのだ。

 「生きていさえすれば良いことがある、悪いこともあるが、死んで何も無いよりは良い。」というのがアローの信条だ。自分なりに真剣に生と死について考えたときに至った結論がこれだった。何を失おうが、誰と別れようが、死ななければそれは良いことだと思う、いや、思うべきだと考えている。だからアローにとって今は絶望的な状況ではない。絶望の先に自殺というアローの信条に真っ向から反対するような選択が待っているのであれば、みんなにも絶望して欲しくない。だから今はあえて意識の違いを無視して希望を唱えるのだ。


 「来る交渉に向けての準備を始めよう。」


 アローがそう言ったところで異変が生じた。ガチャガチャと金属がぶつかる様な音が聞こえてきたのだ。


 「なんだ!?何の音だ!?」


 タクミが叫んだ。


 「大扉だ!!」


 シローも叫ぶ。

 たった今準備をしようと言ったばかりの交渉の相手が、向こうからやってきてしまったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ