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異世界転移したけど女神も姫も出てこない  作者: かが みみる
本編
54/80

054.翻訳の魔石

その日はみんなが起きてから色々と提案してみんなの協力を仰いだ。今までは脱出に消極的だったモーちゃんとアユミが賛成に回ったのでこれまでになくスムーズに提案が受け入れられていった。

まず天井班には天井の調査を再開して貰うことにした。具体的には壁をよじ登ることに挑戦してもらうことになった。イメージはボルダリングだ。壁に手掛かりがないとよじ登ることなど不可能だが、手掛かりが無いなら作ればよい。壁のところどころに手足が掛けられるような小さな穴を開けていくことが天井班の当面の活動となる。武器庫から見つかった剣や槍を道具として使って、時間さえ掛ければ不可能ではないだろう。

 次に料理班には、種になりそうな物の発芽実験をお願いした。これは脱出のためではなく、脱出できないときのためだ。まだ食料に余裕はあるが、延々と脱出できなければ何れは食料が底をついてしまう。もし室内で食料が栽培できれば、少しは延命できるだろう。水はあるしランタンの光もある。レンガを削った粉は土の代わりになりそうだった。それにまだレンガが続いているが、大扉前の床を掘り続ければ本物の土が出てくるかもしれない。そんなに上手く食料を栽培できるとは思っていないが、試さないよりは試したほうがよいだろう。

 そして穴掘班には穴掘りの加速と、魔石の加工だ。魔石の加工にはシズカの夢の記憶が必須なのでシズカは穴掘りのシフトから外れて貰い、そちらに集中して貰うことにした。


 それからはモーちゃんとアユミが脱出に前向きになったことでクラス全体がまとまり、今までに無い一体感の中で色々な作業に取り組むことができた。作業の合間にはみんなで遊んだり話したりして、クラス内の結束も高まってきていた。それがさらに相乗効果を生み、それぞれの作業は着実に進んでいった。そしてそれが成果に繋がったのが魔石の加工だった。



 「できた。」


 そう言ってアローの元に翻訳の魔石を持ってきたのはダイスケとシズカだった。「武器庫の壁貫通祝い」から二日後のことだ。武器庫から魔石を取り出してからたったの二日でできたというと魔石の加工は何の問題も無くできたように思えるが、内情はそうでもない。シズカに魔石とともに武器庫の中で見つかった彫刻刀を渡して加工を始めてもらったのだが、初めは失敗の連続だった。魔石を削りすぎて駄目にしたり、硬くて割れそうに無い魔石が真っ二つになったり、指を切って血をだらだら流して大騒ぎしたりしていた。そう、シズカが思いの外不器用だったのだ。

見かねたダイスケが作業を引き受けた。シズカはダイスケに指示を出すだけにし、ダイスケが実作業を担当したのだ。ダイスケは職人のようで、細かな作業を黙々とこなした。シズカがそこまでしなくてもと言うくらい細部に拘り、シズカの記憶を忠実に再現した。そうしてできたのが翻訳の魔石だ。


 「もう試した?」


 アローが尋ねるとダイスケは黙って頷いた。

 アローはダイスケから渡された二つ一組の翻訳の魔石を手に持つと、片方を軽く叩いた。そしてその石に向かって声を出した。


 「おはよう。」


 「****。」


 魔石からアローの声で聞きなれない言葉が発せられた。アローの発した「おはよう。」という言葉が、未知の言語に翻訳されて魔石から発せられたのだ。アローは何度か同じことを繰り返した後、今度はもう一つの魔石を叩き、そちらに向けて声を発した。


 「****。」


 「おはよう。」


 アローは一つ目の魔石から発せられた声を真似して、もう一つの魔石に向かって未知の言語を発した。すると魔石からアローの声で日本語に翻訳された声が発せられた。

 出来上がった物は正に翻訳の魔石だ。日本語を未知の言語に翻訳する魔石と、未知の言語を日本語に翻訳する魔石の二つが出来上がったのだ。しかも翻訳された声は機械音声などではなく、元の声質をそのまま再現しているという高性能。拳大ほどの宝石のような石に模様を刻んだだけでこのような機能を発するという理不尽さに、怒ればよいのか呆れればよいのか分からない。これって転移よりもはるかに理不尽なのではないか。ここが異世界かもしれないという疑念が確信に変わった瞬間だった。


 「みんなを集めよう。」



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