052.朝
「武器庫の壁貫通祝い」の翌日もアローはいつもの時間に目覚めた。昨夜は遅くまで騒いでいたためまだ眠いが、習慣で同じ時間に目覚めたのだ。みんなも遅くなるだろうから二度寝しようとしていたところで、人の動く気配を感じた。横になったまま気配を探っていると、どうやら炊事場に向かったようだった。この時間に起きて炊事場に向かったということは気配の主はコイケだろう。それならば、と二度寝を止めて起きることにした。
炊事場に入ると中にいたのは予想通りコイケだった。このクラスで朝起きる順番はだいたい決まっている。常に一位、二位を争っているのがコイケとアローだ。コイケは朝起きると必ず炊事場に入り、朝食の準備を始める。アローはそれを手伝うことが多い。二人が仲良くなった最大の要因はこの朝の時間の共有にあった。
「おはよう。」
「おはよう。」
炊事場に入りそっと扉を閉めると、アローはコイケに朝の挨拶を交わした。いつもと変わらぬ朝だ。
「今日はみんな遅いだろうからコイケももう少し寝ていたらいいのに。」
「習慣。学校も何も無いからこそ大事にすべき。」
「なるほど。」
ここでの生活は学校も仕事も無く、時間に縛られることは一切無い。だが、だからこそ同じ時間に起きて同じ時間に食事を取るといった習慣を大事にしないと、どんどんだらけて歯止めが利かなくなってしまう。コイケは言葉数が少ないが、そう言いたいのだろう。しっかりとした考えだと感心するばかりだ。アローも体に染み付いた習慣により同じ時間に起きてはいるが、習慣を大事にしようと思っていた訳ではない。ただ単に習慣で起きてしまっただけだ。大事にしていないから二度寝しようともしていた。しっかりしているコイケに感心していると、コイケが器に入ったスープを持ってきた。食べろということだろう。
「いただきます。」
手を合わせてからスプーンでスープを啜った。夜遅くまで飲み食いしてもたれ気味の腹にも心地よい、すっきりとしたスープだった。柔らかく煮込まれたワンタンの様なものがスルリと喉を通りお腹を満たしてくれてコイケの優しさを感じさせた。そしてコイケの優しさを味わい終わる頃、調理場に新たに三人が入ってきた。