050.ワースト5
モーちゃんがアローの傍を離れると次にやってきたのはシローだった。シローはアローの前に座ると話しを切り出した。
「この間の話の続きだ。あの時は男は単純とか言って誤魔化されたが、態度をはっきりさせてくれないと困る。アローに対する二股疑惑がどうにも消えないで困っているんだ。女性問題で失脚とか、どこの政治家だって話だろ。サヤカとコイケのどっちと付き合うつもりなんだ?」
「最近シローは女の話が多いな。」
「それだけ厄介な問題なのだよ。考えてもみろよ。思春期の男女が同じ部屋で寝泊りしている状況だぞ。それうえこれといった娯楽も無く時間を持て余している。」
シローは興味本位で聞いているのではない。アローに二股疑惑なんかで失脚されたら困るからだと続けた。
アローは二股なんてしていない。そもそもどちらとも付き合っていないからだ。それはシローも分かってはいるが、サヤカとコイケの態度がアローに対して誰から見ても特別なものになっており、いくら付き合っていないと言っても周りの目は変わらないのだった。
「今一部の男子で話題になっている「ワースト5」を知っているか?」
シローが急に話しを変えて質問してきた。アローは「ワースト5」という言葉に心当たりがなかった。
「「ワースト5」というのは、男子のもてるランキングの下位5人のことだ。いや、実際にはそんなランキングは無いのだが。男子の大半はこの部屋からしばらくは出ることができないことを既に覚悟している。その間、俺たちの人間関係はこの中だけでクローズすることになる。どれくらいの期間かは分からないが、そのうちこの中で男女が付き合いだすことになるだろう。そこで問題となるのが男女の人数差だ。男が20人、女が16人。もてる順に相手が決まったとして、男のうちの4人が確実に余ってしまう。それを「ワースト4」と言い出したのだが、女子の中でもタナカだけは無いと言うことで直ぐに「ワースト5」に変わったらしい。」
「ワースト5」の説明を聞いたアローの感想は「くだらない」の一言だった。ここで過ごす期間が長期化する可能性についてはあると思う。だが、もてる順に付き合うなんていうことはない。どうしても好きな人がいたら、他の人と付き合っていようとも追いかけることもあるだろう。順番だからと他の人と付き合うことはない。
それに、タナカは無いという理由で「ワースト4」が「ワースト5」に変わるなんて失礼な話だ。タナカは低身長の太目で、肉は特に顔に付き易いらしく顔がパンパンに張れている。眼鏡を掛けているのだが、それが頬に突き刺さっているように見える。それについてはダイエットでもすれば見違えるかもしれないが、笑い方が「グフフッ」だったり、授業中に時折放心して口を開けたままよだれが垂れていたりすることがあり、アローとしてもタナカは「無い」のだが、女子の人数から外して「ワースト5」とするのは失礼が過ぎるだろう。人によっては「有り」かもしれないし、自分も誰かに「無い」と思われていると考えないのだろうか。