047.保留
武器庫から見つかった魔石について相談するためにリーダー6人とシズカは衣裳部屋に入った。
衣裳部屋に入るなりタクミが得意そうに切り出した。
「魔石が見つかった。」
「武器庫で見つかったあの石のことだろう。それでまた拷問とでも言い出すのか?」
モーちゃんがそう言うと、タクミは詰まらなそうに首を横に振って否定した。
「それはもういい。俺が間違っていたよ。それよりも魔石が見つかったってことは、もうここは異世界で女神が実在すると考えていいんじゃないか?」
タクミはここが異世界で女神が実在するという前提で今後の方針を考えようと訴えた。だがそれをレイナが否定した。
「まだ早いし。その、何とかってやつが作れてからでいいと思うし。」
レイナがそう言うと、モーちゃんとアユミが賛成した。
「アロー君はどう思う?」
タクミがいつものようにアローに話を振ると、アローは少し考えてから答えた。
「僕がどう思おうと、リーダーの半数である3人が、「翻訳の魔石」ができてからと言っているのだから、それが結論だよ。「翻訳の魔石」作りはシズカさんが居ないとできないから、穴掘り班で請け負うよ。その代わり武器庫の穴掘りは一旦停止するね。それから、異世界だとか女神の存在だとかを考えるのは別にみんなの同意が無くても勝手に考えればいいと思うんだ。タクミが望むなら僕が協力するよ。それでいいかな?」
「アロー君が協力してくれるならそれで十分だ。」
タクミは満足そうにそう言った。他の人も特に問題ないと同意した。こうしてリーダー6人とシズカの7人での相談は短時間で終了することになった。
今回の結論は言わば保留だ。魔石と思われる物が見つかったが、それが確かに魔石だという証拠は無い。実際に女神の言う通りに作ってみて、「翻訳の魔石」ができてしまえば夢は本当であり無視し得ないものとなるのだが、現時点では単なる石かもしれず決定的な証拠になり得ないための保留だった。
リーダー達の相談は早々に終了し、クラス全員での「武器庫の壁貫通祝い」が始まった。祝いに欠かせないのは美味しい料理だ。今日だけは食材を節約せずに料理した。いつもと同じでコイケ監修だ。
広間に並べられた様々な料理にクラス全員が喜んだ。中でも目を引いたのはカレーモドキとナンモドキだ。流石のコイケもライスは無理だった。カレーモドキの味は日本で食べるカレーとは別ものだったが、見た目はかなり寄せられていて、それなりに美味しく仕上がっていた。カレーモドキで注目すべき点は味ではなくその話題性だ。カレーモドキ以外にも唐揚げモドキやたこ焼きモドキなどの料理が並んだのだが、話題性ではカレーモドキが1番だった。
「コイケさん、カレー作っちゃいましたよ。できないって言ってませんでしたっけ?」
「愛ね、愛があれば食材の壁すらも乗り越えられるのね。」
そんな会話がコソコソと囁かれた。アローが食べたいと言っていたカレーライスをコイケが工夫をして何とかそれに近付けた。その話題性だけで祝いの場の料理として相応しく、目を引く一品となっていた。なによりみんなカレーが好きだった。
祝いの宴で用意されたのは料理ばかりではない。樽や皿やコップなどを並べて打楽器として使った音が場を賑わした。歌う者もいれば、それに合わせて踊りだす者もいて、全員で大いに騒いでいた。