046.魔石
「私ならもう潜れそうだよ。」
トリミがそう言って指し示したのは武器庫へ続く扉の上に開いた穴だった。
穴掘り班が地道にスプーンで壁を削って開けた穴は、もう頭を突っ込める位には大きくなっていたが、まだ人が潜るには小さいように見える。だがトリミは自分なら潜れると言い出したのだ。トリミはクラス一小柄で、小学生に間違えられることもあるほどだ。その上トリミは運動能力が高く、扉の上の穴だろうが難無く登れてしまうだろう。それなら、ということで早速トリミに試して貰うことになった。
クラス全員が見守る中、トリミは扉の前に置かれた台に乗ると軽くジャンプして穴に手を掛けた。そこから懸垂の要領で体を持ち上げると、器用に片足を穴に掛けた。そこから上体を反動をつけて起こし、両足を穴の中に入れた。
「それじゃあ行ってくるね~。」
トリミは片手をひらひらと振ると、そのままスルリと中に入ってしまった。タンッという着地の音がする。
「うわっ、暗くて何も見えないよ。」
トリミの言葉を聞きランタンを持っていたスズシーが慌てて穴から中を照らした。
「剣とか槍とか一杯あるよ。」
「とりあえず剣を一本こっちにくれ!」
「はーい。行くよー。」
タクミのリクエストに答えて穴から一本の剣の柄がニョキッと出てきた。タクミが台に上りそれを受け取った。剣は鞘に収められており、鞘は抜け落ちない様に紐で結ばれていた。タクミが紐を解き、剣を抜いて上に掲げた。剣の刀身は金属の光沢がありランタンの明かりを跳ね返して光って見えた。
「よし、試し切りだ。スズシー、ちょっとこっちにきて切られろ!」
「いやいやいやいや、無理ですよ。死んじゃいますよ!」
「バーカ、冗談だ。」
タクミは剣を見たがっていたモリヤに渡した。モリヤは剣を持つと徐に素振りを始めた。
「トリミ、他には何か無いか?」
「えーとねぇ、これは盾かな。あとはブーツとかが棚に一杯並んでいるよ。他には大きな箱が何個もあるよ。」
「箱が開きそうなら中身を調べてくれ。」
「はーい。うん。開くね。うわー!凄い!宝石みたいなのがぎっしり詰まっているよ!」
「宝石!?それをこっちに寄越してくれ!」
トリミはタクミの指示に従い箱の中にあった石を1つ掴むと、穴に向かって投げた。石が穴を通過して飛んできたところをタクミがキャッチした。石は大きさが直径4cmほどで赤く滑らかな表面をしており、光沢があった。タクミはしばらく石を眺めた後にアローにそれを渡した。渡されたアローも暫く眺めた後に近くに来ていたシズカに渡した。受け取ったシズカはそれを見ると直ぐにアローの目を見て小さく頷いた。それはつまり、魔石ということだ。
その後は剣と箱に入っていた短剣を数本、それと魔石を20個ほど外に出してからトリミが武器庫から出てきた。中側には台が用意されていなかったのだが、トリミは短い助走でジャンプして穴に手を掛けるとそのままよじ登ってしまったのだ。みんなが口々にトリミを褒めて、今日はこのままお祝いにしようということになった。
転移後初と言える大きな成果にクラス全体が盛り上がっていた。久しぶりに明るい雰囲気の中で全員でお祝いのための料理などの準備に取り掛かった。仕切りはコイケだ。そしてそんな中、リーダー6人とシズカは相談することがあると言い残して衣裳部屋に入った。