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異世界転移したけど女神も姫も出てこない  作者: かが みみる
本編
41/80

041.不満

 全員で掘ればもっと速く掘れるというアユミの主張は正しい。

これまでは一個所につき一度に一人しかつけず、4個所を4人が掘って他の9人は休憩していた。一個所を深く掘ることを目的としていたため、一人でしか作業できなかったからだ。だが先が見えて穴を拡げる段階に入った武器庫の壁には現在2人配置している。他の場所も最初から2人ずつ配置すれば確かに掘る量は多くできただろう。だが掘った先がどうなっているか分からないうちから闇雲に掘る量を増やしても意味が無い。そして何より、穴掘り班のメンバーの体調を考慮してのことだった。

小さなスプーンで硬い壁を少しずつ削る作業は肉体的にも精神的にも過酷だった。ただでさえ突然こんなところに閉じ込められてストレスが掛かっているのに、過酷な作業を長時間やらせてしまっては直ぐに滅入ってしまうだろう。だから休憩を多めにしてきた。自分の中では確固たる理由があってしてきたことだが、そんな理由が今のアユミに通じるとは思えなかった。

 アユミの怒りの原因は個々の事象に対するものというよりは、アユミが抱えていたストレスが暴発したことによるものだろう。アユミに限らずクラス全員がストレスを抱えており、誰が爆発してもおかしくない状況だった。それを知っていながら、この状況では仕方ないと放置していた結果がこうして表面化したのだ。これはアロー自身の怠慢が招いた結果でもあり、クラス全員の責任でもあった。


 「アユミはここに来てから泣いたことはあるかな?」


 アユミの虚を突くべく、そう切り出した。


 「何よ急に。今は関係ないでしょ!」


 アユミの反発は予想通りだ。


 「まあそう言わずに聞いてくれよ。みんなも突然こんなところに閉じ込められて辛いだろう?辛いときは心のままに泣いたり、誰かに打ち明けたりした方がいいんだ。アユミは打ち明けたいことはないかい?」


 「な、ないわよ。」


 アユミはアローが突然何を言い出したのか理解できずに混乱していた。悩みが無いはずがないのだが、急に言われて直ぐに打ち明けられるものでもなかった。


 「みんなはどうかな?ここの生活への不満とかなんでもいいんだ。」


 全体に向けて問いかけると、直ぐに反応したのはサヤカだった。サヤカはハイと手を挙げると不満を話し始めた。


 「私は、音楽が聞きたいな。家に帰って自分の部屋でヘッドホンを着けて大音量で好きなバンドの曲を聴きたい。」


 サヤカの願いはアローが話を進める上で都合の良い内容だった。アローの意図を把握してくれているのだろう。


 「音楽か。ごめん、今まで気付かなかったよ。好きなバンドの曲は無理でも、みんなで音楽を楽しむことはできるかも知れないね。生活も安定してきたし、楽しむことを考えようか。音楽祭の企画とかよさそうだね。」


 話の展開についていけずに困惑するアユミを尻目に、アローは話を続ける。他には無いかと問いかけると、続いてシズカが不満に思っていることを口にした。


 「私は美容室のお姉さんが薦めてくれたシャンプーを買ったばかりだったの。まだ一度も使ってなくて、使ってみたかったなぁ。」


 するとシズカの言葉にレイナが同意した。


 「あーしもシャンプーしたいんだけど。石鹸しかないなんて笑えるわー。」


 アローは笑えるのであればいいのではないかと言う言葉をぐっと堪えて、「そうだねー。」と適当な相槌をしてから他には無いかとナガヤマに振った。


 「俺はやり掛けのゲームの続きがしたいな。」


 「それなら新しいゲームに挑戦してみてくれ。タイトルは「リアル脱出ゲーム『レンガの壁』」だ。サブタイトルは、『~力を入れ過ぎるとスプーンが折れます~』だ。」


 マッサンがそう言うと、穴掘り班を中心に笑いが起こった。ナガヤマのスプーン折りネタは穴掘り班の中では鉄板ネタになっている。

 笑いが収まったところで今度はシローに話を振る。


 「俺もやり掛けのゲームが。」


 すると今度はタカトが、


 「シローも新しいゲームに挑戦してくれ。タイトルは「リアル謎解きゲーム『転移の真相』」。」


 「重いぞ、そのゲームは。攻略本は売っていませんか!?」


 「はいはい、他には無いかな?モーちゃんはどう?」


 タカトのボケにシローが乗っかったが、アローがそれを流してモーちゃんに話を振った。


 「実は俺もやり掛けのゲームが。」


 「よし、モーちゃんには「リアル恋愛シミュレーションゲーム『サヤカ』」だ。」


 「タクミ、それは洒落になってないぞ。」


 モーちゃんとタクミのやり取りは穴掘り班のメンバーの流れを踏襲していたが、内容が重かった。


 「(モーちゃん、告って玉砕したらしいぞ。)」

「(マジか!)」


 「俺のことはいいから!そういうアローくんは何か無いのか?」


 モーちゃんから反対に質問されてアローは少し考えてから答えた。


 「僕はカレーライスが食べたいな。コーラも飲みたい。マンガを読みたいしゲームもしたい。まあでも、どうしようもないことは置いておいて、眠るときにランタンが眩しいなと思っていたんだ。寝るときはランタンを外して他の部屋にしまっておくというのは駄目かな?」


 アローの提案は同意する者もいれば、明るい方がいいという者もいたが、改善の余地有りということで次の話題に移った。


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