004.異世界転生?
後ろの方で騒ぎが起こった。後ろの方というのは元の教室の位置関係で見立てた場合の教壇とは反対側に位置する方向という意味だ。ここは既に教室ではないので後ろの方という表現は正しくないのだが、印象としては後ろの方だった。
その後ろの方では、テル(山口輝、やまぐちてる)とタクミ(益田拓海、ますだたくみ)が騒いでいた。テルは芝居がかった可笑しな言動をするオタクだ。タクミは悪戯好きで悪ふざけが大好きだった。そんな二人が関り合うと当然の様にタクミがテルを弄るという構図が生まれるのだった。
「某のバイブルによればこの状況は正に『異世界転生』なのであります。」
「某」はテルの一人称だ。テルは普通のオタクではなく、特別言動が可笑しなオタクだった。
「みんな~、テルが言うにはこれは『異世界転生』だってよ。おい!それじゃあテル!お前のバイブルによればこの後どうなるんだ!」
「女神か姫が現れて世界の状況を説明するのが『異世界転生』の常識なのであります。」
「女神か姫?あはははっ。なんだそれは?でも面白そうだな。よし、それじゃあ女神か姫が現れるまで待つか。何も現れなかったら、テル!一発殴るからな。」
「これは某のために神が下さった奇跡!これまで蓄えた『異世界転生』の知識を総動員してチート能力を使いこなして見せるであります。」
「何を言っている?まあいいや、早く女神でも姫でもいいから現れねぇかな。おーい、みんなぁ、テルが言うにはこれから女神か姫が現れるらしいから待っていてくれ。」
テルとタクミの寸劇により、クラスメート全員で女神か姫が現れるのを待つことになった。待っている間にモーちゃんが点呼したところ、クラス36人(男20人、女16人)全員がこの場にいることが確認された。また、クラスメート以外はいないことも確認された。
みんなが思い思いに女神か姫を待つ中、僕は一人で壁際まで行き、壁の感触を確かめていた。床と同じ黒っぽいレンガのような物を組み上げて作られている壁はとても固く、ひんやりとしていた。
壁に背を向けて寄りかかると、上を見上げた。天井は見えない。壁には床から3m位の高さにランタンの様な物が取り付けられており部屋の中を照らしているが、ランタンには大きな傘が付いており上方には光が届いていないようである。そのためランタンより上は深い闇に包まれていた。僕にはその闇が、何かを隠しているかのように感じられた。
爺「言葉が通じぬ相手にどうやって協力を申し出たらよいものやら分かりませんな。」
姫「・・・そうね。」
爺「言葉は分かりませぬが、予定通り監視して彼らが安全か見究めるということでよろしいですかな?」
姫「・・・そうね。」