037.アローの考察
アローとシズカは信頼できる仲間だけを呼び集めて女神の夢の話をすることにした。呼んだのは、シロー、ダイスケ、サヤカ、チナツ、イトウの5人だ。
アローがシズカから聞いた話をまとめて説明した。そして最悪のケースについても話した。すると直ぐにシローが質問をした。
「最悪のケースは分かったけど、アローはどう考えているんだ?女神の夢についてアローの考察を聞かせてくれ。」
シローは最悪のケースを聞いてシズカの顔色が悪い理由を悟った。だが、アローがわざわざ「最悪の」と銘打ったということは、そのケースはアローにとっての本流のケースでは無いということだ。シズカにそのことを分からせるための質問だった。単純にシローがアローの考えを聞きたいこともあったが。
「分かった。先ずは確認だけど、シズカさんは「翻訳の魔石」の使い途は分かるかな?」
「ううん。分からない。」
「うん。それなら女神の夢は単なる夢やシズカさんの妄想の可能性は無いだろうね。今の状況で「翻訳の魔石」と言われたら、使い途はは明らかだ。使い途の分からない人が偶然口走る言葉ではないと思う。」
アローは自分の想像する「翻訳の魔石」がどんな物か、使い途は何かの説明を始めた。
アローの想像では、魔石とは魔法の力を持つ石だ。シズカが覚えさせられている魔石に彫る模様は魔石の力を引き出すためのプログラムのような物だと考えられる。そして女神が作らせようとしている「翻訳の魔石」とは、その名の通り翻訳をしてくれる魔石だと考えられる。女神はシズカに日本語を話しているのだから「翻訳の魔石」は女神との会話に使うのでは無いだろう。では誰と誰の会話に使うのかと言えば、シズカとシズカがこれから会う人物が会話するために使うのだ。
「もう完全にテルが言っていた異世界転生の状況になってきたよね。武器庫に剣が有ったし、魔石があるなら魔法もありそうだ。女神も夢だけど出てきたし、これから会う人物の最有力候補は姫ってことになるかな。」
アローが冗談めかした口調でそう言ったが、その可能性は高いとも思っていた。
「その場合、女神はシズカさんでなく姫に翻訳の魔石の作り方を教える気がするな。」
シローがそう言うとアローは大きく頷いた。
「その通りなんだ。女神はできれば姫に翻訳の魔石の作り方を教えたかったのだと思う。けどそれが出来ない理由があったんだ。理由は分からない。相手が神だけに予想もつかない。ただ何となく神何て存在が不安定そうだから、きっとシズカさんが一番波長が合ったとか、そんな理由だと思う。」
「相手が神様だとそういうよく分からないこともあるかも知れないな。俺は最悪のケースよりこっちの方が根拠があって信じられると思う。みんなはどうだ?」
シローがそう言いまとめようとすると、そこにチナツが口を挟んだ。
「女神とか魔法とかって嘘っぽくない?アローたちは頭いいんだからもっと現実的な考えはないの?」
チナツの問い掛けにアローがシローを見ると目が合った。チナツの問い掛けはシローと二人で散々話してきたことだった。それをどちらが説明するか、とい意味の込められたアイコンタクトであり、シローが自分の胸を指差したので、シローに任せることにした。
「その点について俺たちは既に何度も話をしてきたんだ。まず、現実的というには、俺たちの周りで起こっている現実があまりに非現実的だ。現実が非現実的というややこしい状態だから混乱しないように科学的という言葉に言い替えよう。今、俺たちを取り囲んでいる現実は俺たちの知る科学からするととても非科学的だ。」