035.テル
会議が終わったところでテルがアローに話しかけてきた。
「アロー殿、今日も大活躍でしたな。やはりアロー殿はチートを受け取られているのでござろう?某の目は誤魔化せませんぞ。」
「うん?どういう意味かな?」
「皆まで言うな。某はクラス転生関係の本は一通り抑えているので事情は十分分かっているのでござる。やはり転生の時にアロー殿だけが呼ばれたのでござろう?それで、どのようなチートを貰われたのでござるか?」
「えーと、意味が分からないから詳しく説明してくれないか?」
アローがテルに説明を求めるとテルは嬉々として話し始めた。テルの話を要約すると、クラス全員が異世界に転生する物語をテルはたくさん読んでいて、その手の物語では最初の転生の瞬間に主人公だけが直接転生先には行かずに神様などと邂逅するのだそうだ。相手が神様などの超常の存在なので会っている間は時間も止まり、他の人はそんなことがあったとは気付かない。そして主人公はその時に特別な力を貰うのだということだ。
テルはここにきてからずっと、自分がチートに目覚めた可能性を信じて色々と試していた。具体的にはポーズを付けながら「ステータスオープン!」とか唱えていた。言葉を変えたりポーズを変えたりして色々試したが、どうしてもチートは見つけられなかった。そしてどうやら主人公は自分では無いという答えに行きつき、それなら他にクラスの中に主人公がいるのではないかと考えた。そしてテルが考えたもっとも有力な候補がアローだった。
「残念ながら僕ではないね。僕は神様とかに会っていないよ。だけど、既に誰かが僕たちを召喚した人に会っているという考えは面白いね。今まで考えたことが無かったよ。」
アローはテルの話を聞いて、既に誰かが召喚主と会っているという可能性を今まで見落としていたことに気付いた。テルの言ったような転移の瞬間に時間を止めて話をするということができるとは思えない。それが誰であれ、時間を止めた状態で活動する何てことが出来るとは思えなかった。時間が止まっていたら声を出そうとしても空気が振動しないと思うし、振動したとしても高周波で可聴域ではないのではないかと思う。少しでも動いたなら、その速度と加速度は無限大になり、膨大なエネルギーが必要なはずだ。だから時間停止なんて馬鹿げていると思うが、転移だけでも十分馬鹿げているので完全には否定できない。
「もし誰かが既に召喚者と会っているとして、どうして黙っているのかな?」
「アロー殿、チートは秘密にするのが常識でござるよ。」
「常識って、理由は無いの?」
「常識は常識でござる。」
「そうか、分かったよ。ありがとう。とりあえず、チートは僕は貰ってないけど、誰か貰った人がいないか探してみるよ。分かったら教える。テルも何か分かったら言ってくれ。」
「了解でござる。」
テルは話を聞いて貰えたことに喜び上機嫌で離れていった。