033.味方
「モーちゃんの考えはよく理解できるし、正しい考えだと思う。武器は争いの種なるから遠ざけるべきだという考えは十分に理解できる。でも僕はあの壁を開けることを提案するよ。」
「またタクミに味方をするのか!」
モーちゃんが抗議の声を上げた。アローは直ぐにそれを否定する。
「別にタクミの味方をしているのではない。僕はタクミもモーちゃんもこのクラス全員を味方に付けるつもりだよ。敵は、僕たちの生命を奪おうとするモノだよ。」
「アローくんも俺たちを閉じ込めた奴と闘うというのか!?そんな奴、影も形も無いじゃないか!」
「現時点で見えている僕たちの最大の敵は食糧だよ。まだ食料庫には十分な食料があるけど、いつか無くなるだろう。それを解決しないといけないよね。」
「食料と武器は関係ないだろう!」
「関係あるよ。食糧問題はここに閉じ籠っていては解決しようがない。だから僕はここから脱出するために足掻きたいんだ。だから穴を掘っているのだけど、問題は穴掘りに掛かった時間だ。あの壁に小さな穴が開くまでに5日掛かった。ではこのペースだと脱出にはどれくらいの時間が掛かるだろうか?今掘っている中で脱出に対して一番期待できるのは大扉前の床だ。扉の下を潜る穴を開けることができれば脱出の可能性が出てくると思う。でも人が潜れるくらいの穴を開けるには僕の楽観的な目算でも、今までの30倍は掘る必要があると思う。これまでに5日掛かっていて、その30倍だと150日だ。今の掘り方では150日も掛かってしまう。そんなに待てるか?待てないよね。だったら掘り方を変えよう。具体的には道具を変えたいんだ。スプーンでは限界がある。あの壁の向こうにはスプーンよりマシな道具がありそうだろう?だから僕は武器ではなく穴を掘る道具を手に入れるために、あの壁は開けることを提案する。」
「だが本当に穴を掘っていけば脱出できるのか?そもそも、脱出する必要が本当にあるのか?」
モーちゃんはアローの提案に対して別の質問を投げかけた。アローは少し考えてからそれに答えた。
「穴を掘っても脱出できるかは分からない、そして、脱出できたとしても外がどうなっているかも分からないよ。でも僕は、何もしないでいるよりは脱出を目指して足掻いている方が希望を持てると思うんだ。モーちゃんの言いたいことも分かる。この部屋は生活環境が整っている。いや、整い過ぎている。僕たちは閉じ込められてはいるが、明らかに生かされている。僕たちを閉じ込めた奴は僕たちを殺すつもりは無いように思えるよね。僕たちを殺すつもりが無いなら、食糧が尽きる前に何とかしてくれるかもしれない。僕たちを閉じ込めた奴を信頼するなら、このまま閉じ込められたままでいることも選択肢に入ってくるだろう。でも僕は、僕たちを閉じ込めた奴を信頼するくらいなら、このクラスの仲間たちを信じるよ。僕たちは武器を持っても協力し合える。モーちゃんもタクミも僕らは全員が味方だ。だからあの壁を開けよう。」