032.武器庫
右側の開かなかった扉の上の壁に拳くらいの穴が開いた。中は暗くて見えないが、これだけの大きさになれば光で照らしながら中の様子を窺うことが可能になる。ランタンで照らしながら中の様子を窺うと、どうやらそこは倉庫になっているようだった。
「クラス会議を開こう。」
穴の向こう側を確認するなりモーちゃんはそう言った。クラス会議の開催にはクラスリーダー2人以上の同意が必要だが、他のリーダーも全員が会議が必要だと判断して同意した。
実は最初のクラス会議以降にも一度だけクラス会議を開催している。それは料理班全員からの提案であり、モーちゃんとアユミの同意より開催された。内容は洗濯についてで、着っ放しになっていた服を選択した方がいいいという提案だった。しかも料理班が担当してくれるということだったので反対意見も無く採用されたのだった。しかし、今回の会議は当然ながら穴の向こうに関するものであり、揉めることは必至だろう。
まずはアローが穴掘り班を代表して状況報告をすることになった。
「全員は中を見ていないから、穴掘り班から状況を報告するね。今のところ貫通したのは右側の扉の上の壁だけで、その穴も直径7~8cm程度。目的である脱出には程遠い状況です。そして壁の向こう側は、穴から見えた範囲での判断だけど、他の扉と同様に小部屋になっているようです。そして見えた限りで置かれていた物は、剣です。金属製の刃が付いた剣が何本も立てかけられているのが見えました。他はよく見えないけど小部屋の先は武器庫だと思われます。とりあえず、状況報告は以上です。」
アローの状況報告を引き継いで、会議を開催したモーちゃんが議題の説明を始めた。
「俺はあの壁を掘るのを中止することを提案する。提案理由は部屋の中にあるものが武器だからだ。部屋の構造からして出口の可能性は無く、単なる武器庫だろう。武器なんて危険な物は俺たちが生活していくうえで必要ない。むしろ無い方がいい。だからあの壁はこれ以上掘らずに封印しよう。」
モーちゃんが議題を説明し終えると、アユミが賛同した。だがタクミがこれに反対した。
「武器は必要だ。俺たちを閉じ込めた奴と闘うことになる可能性は高い。穴を掘り進めて武器を手に入れるべきだ。」
タクミがそういうと、モーちゃんが反論する。
「閉じ込めた奴なんてまだ影も形もないじゃないか。今の具体的に外敵がいない状態で武器を持ってしまったらその武器はどこに向けられるのか、考えれば直ぐに分かるだろう。外に敵がいないのなら、武器は内側に向けられる。武器を持ったらまた食料庫を占領しようとか考える奴が出てくるかもしれない。それどころか、武器で脅して他の人を奴隷の様に扱う奴も出てくるかもしれない。そうならないためには、武器は手に入れない方がいいんだ。」
アローはモーちゃんの意見も尤もだと思った。信頼できない人に武器を持たれたくないと思うのは当然だ。そしてタクミたちは既に妙な行動を起こしたという実績があり、信頼できないというのも分かる。だがタクミは納得しない。タクミとモーちゃんの言い合いが始まった。
「俺のことを言っているならもうくだらないことはしないよ。俺たちの目標は全員が無事にここを脱出することだ。その目的に反することはしないさ。信じてくれ。」
「口では何とでも言える。」
「武器で脅されることが怖いなら、全員が武器を持てばいいだろう。」
「武器で襲われることが怖いから武器を持って牽制するなんて馬鹿げている。核兵器で牽制しあう核保有国みたいだ。核兵器嫌いの日本人なら最初から武器を手に入れない方がいいという俺の考えに賛同できるだろう?」
「でも武器は必要だ。考えてみてくれ。あの部屋に武器が隠されていたということは、俺たちを閉じ込めた相手も同じ様な武器を持っていると考えた方がいい。武器を持った相手に素手で立ち向かうほど馬鹿じゃないだろう?俺たちが脱出するためには武器が必要だ。悪用されるのが心配だというのならその管理はモーちゃんに任せる。それならいいだろう?」
「駄目だ。同じ部屋で暮らしていては管理も何もあったものではない。危険な物は持たないに限る。」
そこからは不毛な言い合いになった。タクミが武器の必要性を訴え、モーちゃんが武器の危険性を訴える。アユミがモーちゃんを支持し、レイナはタクミに任せると言い早々に議論から離脱した。マッサンは態度を保留する。そうなるとタクミから水を向けられるのはアローだ。タクミがアロー意見を求めてきた。そこでアローは二人の意見を聞きながら考えていたことを話すことになった。
姫「穴の向こうはどうなっているの?」
爺「武器庫ですな。」
姫「武器庫に入られると何か問題があるの?」
爺「とても不味いのですな。監視対象に武器を与える馬鹿はいないのですな。」