028.噂対策
噂の根本原因についてはアローには解決策が思いつかなかった。恋愛感情が理由というのは厄介だ。恋は盲目というが、恋愛感情により行動している相手には理屈が通じない。理屈で物事を考えるアローにとって鬼門とも言えるのが恋愛感情だ。アローから見た限りでは例えアローがいなくてもサヤカがモーちゃんに靡くとは思えない。モーちゃんが諦めてくれればいいのだが、モーちゃんに「サヤカはモーちゃんを見ていないから諦めろ」と言ってもはいそうですかとはならないだろう。
サヤカを遠ざけるのも違うと思った。サヤカの行動は単純明快で、アローを気に入ったからアローに近付き、アローと話したいから話しかけている。食事の時間は一緒に食べようと誘ってくれたし、穴掘りの休憩中にも話しかけてくれた。話す内容は好きな食べ物だとか穴掘りのコツだとかの他愛のないことだったが、話しているとアローも楽しかった。別に付き合っているわけではなくただ仲良くなっただけだ。モーちゃんがサヤカのことが好きだからといって、アローがサヤカとの仲を悪くする必要はない。サヤカの行動が恋愛感情からくるものかは分からないが、サヤカのような可愛いらしい女性から好意を向けられるのは嬉しかった。
「面倒だ。モーちゃんに関しては放置しよう。」
少しだけ考えてからアローが出した結論は放置だった。
「それでアローはいいかもしれないが、コイケに対しても非難する声が出ているだろう。アローとサヤカとモーちゃんの三角関係に巻き込まれたようなものだから、何とかしてやらないと駄目だ。」
シローの言い分は正しい。三角関係と言われると納得がいかないが、コイケに関しては何とかしないといけない。コイケはこれまで料理で大いにみんなを助けてくれている。そんなコイケが非難されるのは許せないとアローも思う。なんとかしないといけない問題だ。
「コイケについてだけは手を打とう。といっても、事実をみんなにしっかりと伝えれば十分だ。料理班の手柄にしておけばモーちゃんも邪魔はしないだろう。この話題をしている人がいたら、コイケを中心とした料理班が開発した小麦粉料理のお陰でこれからは他の食料の消費を抑えることができる。半年以上食料は尽きない。と伝えて欲しい。僕への批判はあっても放置で構わないが、コイケの手柄は印象付けたい。みんなに話すのはシローに任せてもいいかい?」
「ああ、大丈夫だ。任せてくれ。ついでにモーちゃんが諦めるようにアローとサヤカが付き合い始めたって言いふらしてこようか?」
「おい!勘弁してくれよ。」
結果的にはシローはこの役割には向いていた。シローは交友関係が広く、男女を問わずクラスの誰とでも会話する機会があった。そこで着実にコイケ及び料理班の成果を宣伝して周り、あっという間に食料が底を尽くかもしれないという不安は払拭された。全員が料理してくれるコイケに感謝する気持ちを持っていたため、コイケの成果というのも受け入れられやすかった。そして翌日にはコイケに対する非難は聞こえなくなっていた。だが直ぐに別の噂が流れ出したのだった。