027.噂
「このままだとそう遠くないうちに食料が底をつく。特に初日のスープが悪手だった。あれで貴重な食材を大量に消費してしまった。」
今クラス内に囁かれている噂話だ。アローもそれは耳にしていた。狭い空間の中でのことだから耳に栓でもしていない限りは噂の類は嫌でも聞こえてくる。コイケはこの噂を気にしているようだった。
この噂のことをシローと話した時にシローは、「事実かもしれないが問題はこの噂に、初日にスープを作ろうと提案したアローを陥れようとする意図があるってことだ。」と言っていた。噂の理由はどうあれ、アローには事実を否定することはできなかった。食料は有限だからいつかはなくなる。多分半年以上は大丈夫だが、いつか無くなるのは間違いない。それに、初日のスープで在庫の少ない野菜の様な食材を多く消費したことも事実だった。
だが、コイケが気に病むことではない。アローはコイケを励ますことにした。
「コイケのお陰で小麦粉を主食にできる目処がたったよ。これで初日の1食分くらいの浪費は十分に挽回できると思う。だから気にする必要はないよ。それにあの噂はむしろ僕のせいだ。コイケが気にする必要はないよ。」
「でも。」
「そもそも多少食料を多く消費したとしても、あの段階で美味しい料理がお腹一杯食べられたことには意義があったんだ。『転移』直後のみんなの不安があれでかなり和らいだはずだよ。人間も動物だからね。美味しい物をお腹一杯食べられればそれだけで安心する。僕はコイケがみんなの心を救ってくれたと思っているよ。」
「でも今はみんな食料がなくなると不安になっている。」
「大丈夫。さっき言った通り、コイケのお陰でこれから十分挽回できるから。後は僕に任せて。ほら、料理班のみんなが心配そうに、というよりは興味津々でこっちを見ているよ。戻った方がいい。」
アローに促がされてコイケは料理班の集まっている炊事場前に戻っていった。
コイケが戻ったところでアローはシローを呼んだ。
「噂を流しているのはモーちゃんだよ。」
アローが噂の話を持ち出すと、シローは噂の出所を教えてくれた。
「モーちゃんか。でも何故そんなことをするのかな?もしかしたら深い理由があるのかな?」
アローの言葉を聞いてシローはため息を吐いた。
「はぁ。アローはそういうところは鈍いみたいだな。理由はサヤカだよ。モーちゃんはサヤカが好きなんだ。でもサヤカがずっとアローにべったりだから気に食わないんだよ。だからアローを貶めるようなことをみんなに吹き込んでいるんだ。」
「まさか、みんなで協力し合わないといけない時にそんな下らない理由で変な噂を流したりしないだろう?」
「・・・。」
「マジか?」
「マジだ。」
アローはそれを聞いて頭を抱えた。この非常時にそんな下らない理由で人を陥れようとするなんて愚か過ぎるではないか。アローはここで生きていくためには全員が協力し合うことが必要だと考えて、行動もしてきたつもりだ。それが好きな人と仲良くしているのが気に食わないという理由で足を引っ張られるなんて思ってもみなかった。