026.うどん
料理班の結成初日はアユミの発案により全員が思い思いにうどん作りに挑戦した。料理班は炊事場の前の広間の一区画を占領して作業した。そして全員が見事に失敗した。辛うじてうどんの形になったのはコイケだけだったが、そのコイケも自身が全く満足できない出来栄えだった。コイケ以外の者はネチョネチョの粘性体かボロボロの粗粒体しか作れなかったので形ができただけでも十分に凄いことだった。料理班の初日のうどん作りは大失敗だったものの、和気あいあいと作業していたため雰囲気は明るかった。
「失敗作も無駄にはできない。食料は大切にしないといけない。だから何とかして食べよう。」
大量の失敗作を前にしてモーちゃんがそう言うと、アユミが同意した。
「そうね。団子状に丸めてスープに入れましょう。」
こうしてその日の夕飯は小麦粉団子入りのスープになった。うどんの失敗作を無理矢理団子状にしたが、崩れたり溶けたりしてスープの風味を壊すだけ壊した結果、この日の夕飯は大不評となった。
うどん作り初日の失敗を踏まえて翌日の異世界生活3日目は、始めにコイケ一人がうどんを作り、他の料理班のメンバーはそれを見学することにした。コイケは前日の失敗を活かして修正し、本人も納得できるうどんを完成させた。
コイケは出来上がったうどんを器に盛り付けると、突然穴掘り中だったアローの元に持っていった。
「約束通りうどんを作った。食べて。」
料理班のメンバーはコイケの突然の行動に驚いていた。そして穴掘り中だったアローも驚いた。だが、コイケの表情が真剣そのものだったので、近くに居たダイスケと作業を交替してうどんを食べることにした。
「ありがとう。いただきます。」
アローはうどんを一口啜ると、しっかりと味わった。
「うん。美味しいよ。流石としか言いようがないな。」
アローの感想を聞いた瞬間、それまで真剣な面持ちだったコイケの表情がパッと華やぎ笑顔になった。
「よかった。」
コイケはそう言うと、ニコニコしながらアローを見続けた。突然の展開にアローは混乱気味だった。
(もっと食べろってことか!?というかコイケが凄く可愛いのだけれど!!でもずっと見られていると食べ辛いよ!!コイケのニコニコ笑顔はずっと見ていたいけどね。)
アローは心の中で叫んだことで平静を取り戻し、コイケに問いかけた。
「もしかして僕の依頼が結構な心の負担になっていたのかな?」
コイケはプルプルと首を横に振り否定した。
「アローの言ったとおり、小麦粉を上手く使わないと食材が足りなくなる。私のせいだ。」
コイケはそういうと下を向いてしまった。