019.目的
次にタクミの提案による全体の目的についての議論だが、これもタクミからの発案による「全員が無事にこの部屋から脱出すること」が採用された。採用されるポイントとなったのが「全員が無事に」という言葉だろう。タクミが最初からこの言葉を入れていたことで反対意見が抑えられたのだ。そして、目的が定まったところで行動規範が一つ追加された。
一、目的達成に向けた作業への協力義務
一見すると目的のためなら危険な作業も断れないような文言だが、ここでも目的にある「全員が無事に」という言葉が活きてくる。危険な作業や過重労働は「全員が無事に」という目的に反するため協力義務が発生しないという考えだ。
この会議は9時30分頃から始まり、2時間30分が経過してもう12時になっていた。学校で言えば給食の時間だ。そこで全員で協力して昼食を作ることになった。もちろん総指揮はコイケだ。コイケは今朝アローからされたお願いを意識して、小麦を使った料理を作った。お好み焼きを目指したのだが、卵も無ければソースもマヨネーズも無いため、微妙な仕上がりになってしまった。それでも十分食べられる料理であった。
昼食後も会議は継続された。目的までは決めたがやることが決まっていない。やることもなくダラダラと過ごすくらいなら、会議でやることを決めようとタクミが呼び掛けたのだ。
「俺は脱出のために、穴掘りをしたいと考えている。」
タクミはそう切り出してから、僕を見てきた。みんなの視線が僕とタクミに集まった。僕とタクミは二人ともクラス代表に選ばたし、これまでの言動からもクラスの方針決定における重要な立場を担っていることは明らかだ。そんな二人の会話に全員が注目した。
まずは僕からタクミに質問をした。
「扉が開かないのだから脱出するには穴を探すか穴を掘るしかないよね。それで、具体的にはどこを掘るのかな?」
「大扉は出口の可能性が高い。だから、大扉の脇の壁と大扉の下の床。それから、空いてないもう一つの扉は、扉の上の壁。これは他の部屋の造りと同じだとすると壁が薄い可能性が高いからだ。後は扉の無い壁を適当に一箇所。これは根拠無し。一箇所くらいそういうところがあってもいいだろう。とりあえずはこの4個所だ。」
「僕はいいと思う。それで、どうやって掘るのかな?」
「とりあえず使えそうな道具として、スプーンだな。さっき少し試してみたけど、レンガを少しは削れた。時間が掛ければ掘れないことはないと思う。1箇所につき1人として同時に4人が作業する。1時間交替なら9時間で一周だ。」
「それは全員動員する場合だよね。全員動員する必要はないと思う。担当を決めてやろうよ。」
「それはつまり、他にやることがあるということか?」
僕には他にも人を動員してやりたいことがあった。だからタクミの問いに頷くと、やりたいことを話し始めた。