018.行動規範
「こういうのはどうかな。権限を一人に任せるのは止めて複数人にする。会議開催権限と議題提案権限を持つクラスの代表者を数人選出しておく。その他の人も提案したいことがあったら代表者を通せばいい。自分からは発言し難い人もこれならできるだろう。」
この発案はすぐに全員から了承され、その後の議論で代表者は複数の人からの推薦と本人の了解により決定された。モーちゃん、タクミ、アユミ、マッサン、レイナ、それと僕の6人だ。ここで6人がそれぞれ一言挨拶をすることになった。
始めに挨拶したのはモーちゃんだ。
「今、俺たちは全員で協力していかなければならない状況にある。僕達はいつまでかは分からないけど、ここで、みんなで、生活していかなければならない。俺はクラス代表としてみんなの生活を守りたいと思っている。だから困ったことがあれば何でも相談して欲しい。みんなでみんなの命と生活を守っていこう。」
誰ともなく拍手が起こり、次はタクミの挨拶となった。
「俺はこんなところにいつまでも閉じ込められているつもりはない。みんなもそうだろう?俺たちの自由を取り戻すためにみんなの力を貸してくれ!よろしく。」
再びの拍手のあと、アユミが挨拶を始めた。
「クラス代表に選ばれましたアユミです。みんなの意見を聞いてよりよい方向にこのクラスを導いていきたいと思います。頑張りますのでよろしくお願いします。」
アユミが深々とお辞儀をするとみんなが拍手をした。次は僕の番だ。
「みんなには覚悟を決めて欲しい。今、僕達の前には答えは無いが逃げようのない問題が山積みだ。生命の維持とそのための生活基盤の構築、そして僕たちに何が起きたかの解明、この部屋からの脱出とその後のこと。学校や家族への連絡。問題はいっぱいあるけど悩むことは無い。問題のほとんどは今僕たちには分かるわけがないことだからだ。今は、今できることだけに目を向けよう。今は、今できることをして、今できないことは諦める。その覚悟を持って欲しい。僕からは以上だ。」
みんなが拍手し、次はマッサンの番だ。
「みんな、アローくんの言うとおり、今できることをしよう。そうだ。サッカーボールやバスケットボールが無くても、服を丸めてボールを作ればキャッチボールはできる。何も塞ぎこむ必要は無いんだ。明るくいこう!」
マッサンのマッサンらしい挨拶にみんなが拍手した。最後はレイナだ。
「あーしは難しいことは分からないけど、みんなが元気にならいいと思うし。よろしく~。」
レイナの挨拶にも拍手が起こり、クラス代表6人の挨拶が終了した。
クラス代表は会議開催と議題提案の権限を持つ。議題提案はこの6人であれば単独で提案できるが、会議開催は頻発しないよう6人の中で調整してからということになった。具体的には2人以上の賛成が得られてからの開催だ。
会議はクラス代表6人全員の合意により、引続き行われることになった。モーちゃんからの提案の行動規範と、タクミからの提案の全体の目的についての議論だ。まずはモーちゃんから行動規範の素案が提示された。
一、日本の法律において犯罪となる行為の禁止(覚えている範囲で)
一、各設備の専有禁止
一、食料の無断持ち出し禁止
一、暴力(性的なものや言葉の暴力を含む)の禁止
一、トイレ・シャワー・着替えの覗き見禁止
一、性行為の禁止
一、集団生活を阻害する行為の禁止
モーちゃんが示した素案は全体の了承が得られてそのまま採用された。
モーちゃんが「性行為の禁止」に言及したことに心の中で称賛を送った。性行為は僕達の常識においても、合意の上であれば犯罪ではない。だから禁止であることを明言しておかないと性行為に及ぶ者たちが出てくる可能性がある。同じ部屋の中で男女が集団生活するこの場においては互いが嫌な思いをしないために禁止にすべきことであろう。だが、性行為について言及するというのは恥ずかしくてなかなかできることではないので、モーちゃんの勇気を素直に褒め称え、禁則ばかりで息苦しい行動規範にも文句を言わないことにした。
姫「話し合いばかりでつまらないわね。」
爺「まだ続くようですな。せめて言葉が分かれば良いのですがな。」
姫「爺のいじわる!」