015.小麦
実は食料庫の中の食材の偏りが気になっていた。乾燥室の大半を占有していたのが、大量の小麦と思われる白い粉だった。それは明らかに主食にすべき量が蓄えられていた。これが日本人である僕達にとって馴染みの深い米であれば良かった。小麦となるとどうやって食べたらよいのか僕には分からなかった。どれだけの期間をここで過ごすことになるのか分からないが、小麦の食べ方は考えておくべきだろう。僕はコイケに小麦を主食として美味しく食べるレシピの研究をお願いした。
「頑張る。」
コイケの返答はそれだけだったが、表情は嬉しそうだったので大丈夫だろう。コイケの腕に期待することにした。
コイケと二人で朝食の準備を終えた。昨夜のスープの残りに具財を足した物と、僕が切ったホウレン草などの野菜と肉を使った肉野菜炒めだ。味見をしたが、可も無く不可もなく、それなりの味だった。
「やっぱり主食も欲しいよね。パンとかって作れないの?」
「イーストが必要。美味しいパンなら牛乳や卵も欲しい。」
「そうか。何なら作れそうかな。」
「うどん。卵があれば他にも色々作れるけど。」
「卵が無い、か。それならまずはうどんに挑戦かな。作ったことはあるの?」
「ない。けど、なんとなくなら分かる。」
コイケと小麦について話していると炊事場にサヤカが入ってきた。
「おはよう!あっ、いい香り。朝御飯を作っていたの?」
サヤカを見ると、起き抜けに「サヤカと同じ屋根の下」などと考えていたことを思い出してしまったが、別にやましい事はないと直ぐに気持ちを切り替えた。
「うん。コイケが一人で作っていたから手伝ったんだ。外に臭いとか音とか漏れてなかった?」
「全然漏れてなかったよ。まだ半分以上の人が寝ているし、起きていた私も気付かなかったよ。」
「他にも起きている人がいるのか。」
「うん、今呼んでくるね。」
そう言うとサヤカは炊事場を出ていった。そして直ぐに10人ほど連れて戻ってきた。起きている人だけでも朝食を食べてしまおうということになった。炊事場の中でひっそりと食事を食べているうちに、パラパラと起きてくる人がいた。最終的に全員が起きて朝食を食べ終わり、片付けまで終ったのは9時頃だった。昨日は遅かったので寝ている人を起こすのは悪いと思って起きるまで待っていたが、そのせいでかなりの時間を無駄にしてしまった。やはり集団生活のルールなどは決めていく必要があるだろう。
アラン「お呼びですか。」
爺「うむ。話は聞いておるな。お前には彼らが危険な存在でないか見て欲しい。」
アラン「はっ。」