013.キャンプみたいだ
寝袋に入り寝ようとしていたが、周囲からはまだ話し声が聞こえていた。クラス全員で夕食を作って食べてみんなで寝るというキャンプの様な状況に興奮した声が聞こえてくる。
「もう寝たか?」
「まだだよ。」
「何だかキャンプみたいだな。こういう時はやっぱり恋話?」
「いやいや、女子も居るし。無理でしょう。」
あの声はマッサン(松木友久、まつきともひさ)とタカトくん(野村鷹人、のむらたかと)だな。流石はマッサンだ。こんな時でも元気そうだ。
マッサンはサッカーだとかバスケットボールだとかの遊びを頻繁に企画してそれにクラスの男子のほとんどを巻き込んできた、ある意味でパワフルな人だ。そして遊びが始まると自分自身が全力で楽しむことでその場を温めるムードメーカーになる。マッサンがいつも通りならマッサンの周辺の人は心が折れることは無いだろう。
他の声に耳を傾けると、女子の中にもまだ大声で騒いでいる人がいた。
「ねえ、あーしのケータイ、ずっと使えないし。壊れたんじゃね?」
「レイナ、それ、壊れたんじゃなくて、ここが電波来てないだけだから。」
あれはレイナ(片桐玲奈、かたぎりれいな)とタカサキ(高崎桃香、たかさきももか)だな。レイナは真性の馬鹿のようだ。レイナは見た目が派手な御嬢様風で美人なのだが、どうもあの馬鹿っぽい口調が今まで好きになれなかった。だが真性の馬鹿なら馬鹿っぽい口調も許せる気がするな。でも好きにはならないな。タカサキは馬鹿に付き合ってあげて、良い奴だな。体格がいいからタクミ達にゴリラなんて呼ばれているけど、良い奴だから優しくしてあげるべきだな。
レイナの言うケータイとは携帯型情報端末のことだ。電話やメール、インターネットなどが利用できる便利アイテムだが、ここでは時計くらいしか役に立たない。僕も持っているが、『転移』後直ぐに電源を切ってある。レイナの様に電源を入れたままだと直ぐに電池が無くなり本当に使えなくなってしまうだろう。状況が変わって使えるようになった時のために今は電源を切るのが正解だと考えていた。
他の声にも耳を傾けた。すすり泣く様な声が聞こえてくる。女子のようだ。誰だかは分からないが、この状況に耐えられない子もいるだろう。助けてあげたいと思うが、何をすれば助けになるかが分からない。家に帰してあげられれば助けになることは間違いないが、それはできそうもない。無責任な気休めも言いたくない。今できるのは今を生きることだけだ。
その後も他の声にも耳を傾けているうちに何時の間にか眠りについていた。
爺「姫は眠ったかな?」
男「はい。」
爺「ルンケイオスとアランを呼んでおくように。」
男「はっ。」