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No.5「終わりの1歩」

前と同じ、太陽のような笑顔、

そして、透き通ったシルクのような肌。

まるで雪山の中から現れたかのようなその姿は、

数年前と同じで、それだけで、心の隙間はゆっくりと埋まっていくようで、幸せで。

― お久しぶりだね、元気だった? ―

数年もの長い時だったはずなのに、まるで一ヶ月ぶりにあったという感じ、少し気が抜けるがそれは仕方がないこと、女の子にしてみれば本当にそれくらいの歳月しか流れていないのだから。

「うん、お久しぶりだ」

冗談を飛ばして、気持ちをほぐす、

本当は爆発寸前なのだけれども、そうでもしないといろんな内の感情が飛び出てしまって、大切なことを伝えられなくなってしまう。

そうなる前に、ちゃんと前へと、

「行くか、滝」

今度は私が手を引っ張って、この子を滝へと連れていく、女の子も特段驚いた様子も見せず、むしろ当たり前と言う感じで、俺の後ろをしっかりとついてきている。

まあ、それがどうしてなのかも、もうわかっている、それを証明するために帰ってきたのだから。


― 変わってないね、あの日から

君はこんなに変わっちゃったのにね ―

「年はとりたく無いな」

滝は激しく流れ、湖は美しく透き通っている、

小鳥がさえずり、風が近くの木から音色を鳴らす。

湖に来たからか、我慢できないと言わんばかりの顔の女の子の手が湖に浸る。


― せっかくだし、魚取りしようよ

君が私に勝てるようになったのか ―

「いいだろう」


結論から言えば、圧勝だった。

あれから友人たちとも競いあって鍛えた腕だ、負けるはずもないとはわかっていたがまさかここまでとは予想外。

端の方で女の子は足を浸けていじけてしまっている、よほどショックだったのだろう。

「あれから数年…たったからな」

話をするのは、このタイミングだと直感した。

あの日から伝えたかった事を、しっかりとこの子に話さなくてはいけない、そうしないと前へは進めない。


「君と話をして、遊んでから…友達が出来た

大切な親友だ」

- 知ってる

「それからは神社にも来なくなって、それからもたくさんの友人に包まれ、私は素晴らしい環境に包まれた」

- …じゃあわかったよね、私の事 -

「ああ」


わかっている、わかってしまったんだ。

それを告げないと行けない、

でもそしたらこの子は消えてしまう。

決して、二度と会うことはないだろう。

それが辛くて、迷っている。


- 私に会えなくなるのがいや?

…図星だろう、君は私なんだから、わかるよ ―

「…ああ」


- なら私が言ってしまおうか?

君のために、ちゃんとね -


そう提案された瞬間に口は素早く言葉を発していた、言わせてしまっては、いけないと…


「君は、私が欲しがっていた友達だ、未熟な私を、自分の心の中へと引きこもっていた私を、外へと誘い出すための…架空の」


- よく言えました、はなまるですよ -

そう呟き、すでに女の子は消え始めていく、

私はしっかりその手を握って、涙を流していた。


「私はこの先、ちゃんとやっていけるだろうか

君の事をきっと何度も思い出す、後ろに逃げてしまうだろう」

私は決して強い人間じゃない、自覚しているから、涙が止まらないのだろう。

泣き続ける私を


- 君は、もう君なんだ、

私はもういらないよ、

友達がいるだろう?家族がいるだろう?

架空の世界に逃げ込むのはもう終わりだよ

さあ、最後の1歩を踏み出すんだ

だから、ね?お願い、私にちゃんと

さよならして? -


「…」もうきっとあと数秒で消えてしまうのだろう、ならもう、迷うことなど出来ない。


「さよなら、私」


- うん、さよなら

私 頑張れ ―

最後の最後まで、「私」は私を励ましてくれていた。

それから、女の子はあっという間に消えてしまった。

最後にちゃんと笑っていてくれたのは、嬉しかった、私は泣いていてしまった、情けない男だとつくづく思う。

それから、くるりときびすを反して、湖を、神社を後にした。

知っていたのだ、神社の裏に道など無いと、

これも、私が作り出した理想の心象、

そして、もう二度と見ることの無い、神社の向こう側。


家に戻ると親友が父と酒を酌み交わして、一足先に宴会を始めていた。

なんでも「お前の男記念日」だとか。

父は「男の顔つきになった」と言い、静かに肩を叩いてくれた。

親友は「ちゃんとけじめ、つけてきたんだな」

と言って、いつもより優しく、背中を叩いた。

母は何が何やらと言った様子であったが、

二人が「男同士の秘密だよ」と言うと、

くだらないと言いつつ笑ってくれた。


それから、すぐ自宅に戻る事にし、実家を後にする、父はもう帰るのか、と惜しんだが、仕方ないとおみやげのリンゴを持たせて、私の車に無理矢理詰め込んだ。

おかげで今車の後ろは重い。


自宅に戻り、テレビをつけると

「今日はいつもより、涼しい天気になるでしょう」とキャスターが嬉しそうな顔をして話している、

もう日が落ちるのが早くなる頃になっていた。


明日からまた仕事が始まる、大人としての私が始まる、しかしもう心に空っぽの部分はない。

私は私にちゃんと立派にやっているぞと笑顔で言えるように、これからも、いつまでも、頑張っていく。

「今日も、よく晴れた夏だなあ」

空は、透き通るような快晴だった。



よく晴れた夏の日に

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