【ある悪役令嬢の嘆き】術と契約、そして犠牲にしたもの
私は過去から未来に転生した。本当なら過去に生きる魂は、過去の時の流れの中で循環するのに、未来と過去を往き来する人物によって、怪しげな術をかけられて無理矢理未来に連れて来られたのだ。
今世での私の名前は、瑠梛・ロークス。世界でも屈指のグローバル会社を経営するロークス一族の直系で、10歳の一人娘だ。
「それにしても……未来に転生したことは受け入れられますが、私の前世の記憶といえば、カナルさんが過去の世界で作ったヒドイ内容のクソゲーのみ。どうにかならなかったんですか?」
「ルナさん、その言い方はないじゃないですか!? クソゲーなのは認めますが、何十回もボクが経験した未来でのループにおいて、起きた事象の共通点をすべて抽出するのは大変だったんです。時間がない中まとめるだけで精一杯で、そのうえ面白さを付与するなんて無理です。ボクも必死だったんですよ」
―― あのゲームの発売、なぜ誰も延期しなかったんだろう?
それが最大の疑問だ。追加修正での発売延期はよく聞くけれど、今世で私と同じ歳の少年であるカナルの話を聞く限りでは、そうしなかったようだ。
今、話題にあがっているのは、前世で私のトラウマになったクソゲー、ホラグロRPG『フルフルちだまり☆』だ。ガゼボテラスでの優雅なティータイムにまったく相応しくないが、一度キチンと聞いてみたかったので仕方がない。
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『フルフルちだまり☆』
それは私のお兄様フィリーオ・ロークスが長年の夢であるペガサスやらケンタウルスやらを作り出そうと秘密裏にキメラ研究に没頭したことが発端である。
途中まで上手くいっていた実験は失敗してしまい、フィリーオは命を落とす。そのため、実験室は管理不行き届きとなり、キメラが脱走、野生化してしまう。世界中に闊歩するようになったキメラが人類を壊滅に追い込む寸前という状況でゲームがスタート。
プレイヤーはキメラを抹殺しつつ、増殖を抑えるために、フィリーオの実験メモを集めたり、フィリーオに縁のある人物と会い、謎解きをするアクションアドベンチャーRPGである。
このゲームの登場キャラは、イケメン王子、ワイルド系、ショタ、ダンディーな執事、はたまた美少女各種まで網羅しており、キャラデザやキャラ設定は素晴らしかった。
そのため、こんなにハードな内容とは知らずにプロモーションやパッケージに騙されて買った人は、男女共に数知れず。
素敵なお気に入りのパーティーキャラが片っ端からバタバタと残酷な死に方で死んでいくのはプレイヤーにとってトラウマでしかなかった。パーティーメンバーになる10人以上のキャラが死亡による強制離脱で、後半をプレイする頃には心が折れ、「どうせ、このキャラも死ぬんだー!」と、育てようという気が起きなくなる。とにかく最後まで救いのない鬱展開連続のストーリーだった。
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「カナルさんが前世を終えるまで、時間はたくさんありましたよね?」
「実はあの時いつ死んでもおかしくなかったんですよ、未来にルナさんを転生させるために施した術のせいで。『絶望的な未来を変えるという願い』を叶えるために、自分の寿命を一部削ったんです」
だから、時間がなかったんだ。
「ヒトの想いで過去の魂を縛るためには寿命を削り、ヒトの魂で過去の魂を縛るためにはヒトの想いを削る……ボクがルナさんに施した術です」
「……え? 今、ヒトの想いを削るって言いました?」
聞き間違いかもしれないため、確認する。
「そうですよ? 兄さんはルナさんの魂を今世に引き戻すため、『ルナさんへの想い』を犠牲に……」
「犠牲にしたように感じられないのですが?」
「……い、一部ですから。ルナさん! 絶対、兄さんの気持ちが重すぎるとか考えないでください」
私がそのことに気がつき、サァッとカナルが青ざめた。やってしまった感丸出しで、慌てている。
「私が予想していたより、重いことが分かりました」
「ルナさんの成長に合わせてくれますから! 早まらないでください」
カナルは眉根を寄せ、「マズイ、なぜルナさんに話してしまったんだろう?」と両目を片手で覆った。