6 女神ですが魔眼を習得します
#6
『ボクに飛行スキルを伝授してくれないかな?』
オズさんが、おずおずとした調子で話しかけてきた。フードの中の猫の瞳は物欲しげに光っている。
『んんー? いいけど、伝授って何なのです?』
私は水晶の中の女神のように、ぷかぷか浮かびながら念話を返す。
……ちょっとは女神らしく口調を改めた方がいいのかな? いやNPCには念話が届かないっぽいし、どうでもいいか……
『スキルを相手に教える! スーパー師弟タイム! 元スキルはちょっと減る!』
オズさんが新情報を持ってきた。スキルを分け与える方法があるらしい。
一体どこで調べてくるのだろう。
どうやらオズさんは、私のスキルが目当てでここまで来たようだ。物欲しげな目がそう語っている。
『減るの!? まあいいのです。ヘイカマーン! ハリー! チッキーン! ユーフィーン!』
スキルを獲りにくるオズさんを、私は全力で迎え撃つ。
ファイティングポーズでパンチをシュッシューっとやりたい気分だったけれど、水晶に覆われた身体はピクリとも動かなかった。
『いやいや、そっちがヤルんだよ? まぁ、これでも食らえ!』
【システム通知:オズさんから《伝授=魔眼スキル》を受けますか?】
【→受ける / 断る】
【システム通知:オズさんから伝授を受け魔眼スキルⅠを習得しました!】
《魔眼=千里眼》 [起][召][自在][疎][標]
千里眼投射体を作り憑依する。アトリビュート・アイコン。
思いがけず、私は魔眼スキルを習得した。
呪われそうな絵柄の赤いアイコンだった。
『闇がよく見える……いい眼だ……。ぐっ! チカラが……! まあいい……好きなだけ、喰らうと良い……!』
ネルソン君が顔を斜めにして、赤い光を左目に宿らせ喜びを体現している。
既に伝授済みらしい。
魔眼スキルはメメ族の種族スキルのようだ。ハネ族の飛行スキルと似たようなものだろう。
せっかくなので私も、飛行スキルを二人に伝授した。
アイキャンフライ! ユーキャンフライ!
……しかしオズさん。羽も無いのにどうやって飛ぶつもりなのです?
『ふっ……わるいな……。借りは、返す……』
ネルソン君は、近いうちに改めて伝授してくれるそうだ。
剣スキルにかまけて、オモシロスキルはノータッチだったらしい。なんともったいない!
『気にしなーいのです! 財布は犠牲になったのだ!』
『斧の犠牲にな!』
『ふっ……剣を……なめるな……!』
ファイティングポーズを取り、いい感じのリアクションを返すネルソン君。
即興の軽口でネルソン君を弄るのは楽しい。
ヒートアップしたネルソン君は、左目を妖しく輝かせてオズさんを視界に捉える。
オズさんも負けじと第三の目を輝かせる。
二人の魔眼スキルが発動して、大神殿に禍々しいオーラがあふれた。
『みゃははははは! くすぐったい! ヤバイくすぐったい!』
『グワッ……やめろ……! 俺の中に……入って、くるな……!』
二人とも、オーラを吸い取ったり吸い取られたりしながら悶絶している。
それはいかにもネルソン君が好みそうな、見映えのする能力だった。
ああ、これって嫌がらせ系のスキルなのかな?
モンスターに使ったら敵対心が凄そうなのです。
じゃれ合っていた二人は、いきなり間合いを詰めた白騎士のチョップで、同時に気絶した。
相手のHPを吸い取る事案に、お巡りさんが駆けつけたらしい。
私は何も悪いことをしていないのに殴られたのだけど……
気絶した二人は、わりとすぐに回復した。
祝福スキルはけっこう役に立つスキルなのです!
私もマイ・キャラクターの明示盤を開いてアイコンを入れ替えてみた。手が動かないので穴に直接ホールインワンするしかない。
【擬宝術=魔眼=千里眼】
赤い炎のようなエフェクトを発して穴に入った。
【マイ・キャラクター】
◆メインアーム:〈素手〉
アトリビュート1:《魔眼=千里眼》
コモンスロット2:《祝福=交通安全》
コモンスロット3:《祝福=無病息災》
コモンスロット4:《祝福=商売繁盛》
コモンスロット5:《祝福=家庭円満》
コモンスロット6:《祝福=天壌無窮》
『いっくよー! 《魔眼=千里眼》! とう!』
燃え上がれ、私の左目!
これで私も、緑と赤のオッドアイなのです!
『うおッ!?』
『うっわぁぁぁぁ……キモッ! なにそれ? 邪女神があらわれた!?』
私のほうを見上げた二人の顔が歪んだ。二人そろってヨロヨロと後ずさった。
本気の嫌悪で、二人ともドン引きの表情だった。
予想外の扱いすぎて、私はショックを受けた。
『光と、闇が、合わさる時……頭がおかしくなる……』
『ちょっとそれ、グロ過ぎだよ? 羽根に目がいっぱいあるよ?』
『えっ、自分では見えないのです……』
私は涙目になった。
『あー、えっとね? 《魔眼=千里眼》は目を瞑るんだよ? 目閉じてる?』
私はオズさんの声に従って目をつぶる。
しかし、まだ大広間が見渡せる。
……あれ? 見えてる?
そう思った途端、ぬるっと身体が滑って落っこちた。
腰の翼を羽ばたかせて、床の上に降り立った。
私は水晶柱から抜け出した……と思ったら身体が透明になっていた……
『成功かな? 成功かな? 透明人間になってる? それが千里眼投射体だよ? メメ族の場合は、目を二つだけつぶると幽体離脱みたいに視覚を飛ばせるんだよね。……あ、ちなみに後ろは見ないほうがいいんじゃないかな?』
オズさんが気になることを口にした。
それに釣られて私は振り返り、水晶柱を見上げた。
『……ぎゃああああああああああ!』
邪悪な羽根キャラが、水晶に封印されていた。
天使の翼は赤黒い妖光に染まり、羽根の一枚一枚に眼のようなものが浮かび上がる。百の目がまぶたを不規則に蠢かせ、定まらない視線が方々に狂気を走らせる。
『……こいつは、へヴィだぜ……』
ネルソン君の声がうつろに響いた。
『よーし! それじゃあ、飛行スキルを試してみようかな?』
しばらくして、オズさんが場の空気を変えた。
『うむ……』
ネルソン君が足を開いて身構える。すると金属ブーツの横に、チカチカ瞬く光の翼があらわれた。
翼が空を打ち、光の破片が羽毛のように舞い散る。
『闇を切り裂く……勇気の剣閃だ……』
ネルソン君は、氷の上を滑るように空を飛んだ。
『おおー! これが……愛の羽根パワーなのです!』
ウルトラかっこいい。ステキすぎる。ナイス羽根!
『良し来た! これが、ボクの希望!』
オズさんが全身に力を込めると、目からナニカが噴射された。
『うわぁぁあああぁぁっ!? あっ! あっ! あっ!』
オズさんは入り口の扉まで一直線に飛んだ。
光の羽毛を大量に撒き散らして、後ろ向きにぶっ飛んでいった。